第41話 

*夕闇晩餐会*





 ゴリッ…バキッ…


 ゴリッ……





 ワインを一飲みしてテーブルいっぱいに並べられた食事たちを見渡す。


 「絶対胃もたれするな…」

 と、呟きアナスタシアがため息をつく。


 普段は一人でゆったり食べたいタイプなため飛んでベランダからしか出入りできない自室で食べる。

 しかし今回は違った。

 お忍びで帝国まで遠出して帰って早々に、


 「アナスタシア様が傷心しておられる」

 と部下が料理をまとめて作っていた。無駄に張り切って作りすぎて置く場所がないため長めのテーブルを使用していた。


 …一体何人前あるのか

 そう思いながら洋風の豪華な長い長いテーブルに一人頬杖をつく。


 消化さえすれば良いのだから、保存して数日かけて消費すれば良いのに…

 俺別にフードファイトしてる訳じゃないんだが

 と、皿の骨吐き肉を掴んで食べる。



 その皿の唐揚げがなくなると現実逃避する様にそれを眺めたり、舐めたり。中々全ての食事を進めることはない。




 …バキバキッ



 –––…進めるか

 と、骨も食らってからアナスタシアが次の肉料理に手を出す。同時に、「失礼します」とドアが開き、


 「アナスタシア様

 こちらを」


 と、よく一緒にお供してくれる黒竜が人間体に化けた状態で粉薬と資料の束をいくつか抱えて入ってきた。


 「薬は胃薬だけくれ」


 「はあ、

 後でまたお持ちします」


 と、隣に座る。

 黒竜がアナスタシアを少し心配しながらも、自分は別に持ってきたお粥を食べる。


 「俺にくれ、変われ」と、アナスタシアが骨つきの唐揚げをぶらぶらさせる。


 「いや、草食なので…

 あなたと食べるとお腹いっぱいになるので」

 と、黒竜が腹を撫でながら満腹表現をする。


 「粥でか。

 少食な竜だな」

 と、少しイラッとしながらまあいいと、喋って気が楽になったのかアナスタシアは箸を進める。


 「フローゼさんは」

 と、それを察知してか、それともアナスタシアの気を紛らわすためか竜が喋り出した。

 フローゼという、黒竜がよく乗せていた少し弟エリザベート…イザベラに似た性格の空色の髪の女性の話を切り出す。


 アナスタシアは口が塞がっているので目線で相槌を打つ。


「俺にも優しいし、獣人にも優しい変わった方だった

それを出しにして教会は…」と、竜が批難した。

 

 「…珍しいな」と、空になった皿を重ねながらアナスタシア。

 ハンバーグを食べ終わり、今度は生姜焼きに手を出す。向こうに見える鍋群に吐き気を感じてしまう。


 そんな気も知らず、

 「竜と契約さえすれば魔法や半不死となれるのに。

なぜですか?」

 「やはり魔石が金になるからですか?」

 「契約で共存するよりも、一人で強くなりたい者が多いからとかですか?」

 と、矢継ぎ早に語る。


 ハンバーグも平らげて、皿をまた重ねながら「だからこそ、その癌を取り除かないとな」とアナスタシア。


 「我が弟も頑張ってる事だし、俺もやらなきゃな。

 ま、弟が見つかってから考えていた事だ。ちゃんと覚悟はしてるさ」


 と、続けた。

 黒竜はもう粥を終えたらしく、アナスタシアの言葉を聞いてから「共に付き従いますので」と。


「おい、おまえまで戦いに行くことはないぞ

 困る。弟を見てもらわなきゃならないからな」


 と、アナスタシアが資料を見ながら串焼きを食べているところ、

 はあぁと、竜がため息をついて「ではお互い生き残るため、皆と訓練に行きますので」と席を立つ。


 「じゃあ俺の食が進むようにやってくれ」と、アナスタシア。


 少し寂しそうな顔をしてから黒竜が「もちろん」と、答えて出ていった。それにアナスタシアは何度目かのデジャビュを感じながら。

 そして黒い肢体が陽の朱に染まるのを見送り、すぐ後に隊列を組み模擬戦をするのをショー感覚で見ながらアナスタシアは食べ進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る