第38話
*夕焼けの六花*
「アナスタシア様。こちらです!!」
そうアナスタシアを呼ぶ彼女。フローゼの水色のウェーブが掛かった髪がオレンジの空に揺れる。
「ああ」と、アナスタシア。ツノや翼は隠していなかった。
というのも、彼女が獣人や貧民などを助け、保護区のような場に住まわせているという話を聞いたから。
更に魔物の知恵のあるもの、虫たちまで保護してあるという。その行いを見て人々は彼女のことを聖女と呼んでいる。
それを聞き本人は、「恐れ多いです……」と恥ずかし気にした。その事を聞き、彼女の前なら別に偽装しなくて大丈夫と、アナスタシア思った。だからこそ、ツノや翼はそのままにしていた。
彼女も最初は驚いたようだ。しかしすぐ「ああ、だからイザベラ様はお兄様を大切にされていたのですね……。なんだか尊い」
と拝むように手を合わせて言った。
またイザベラの後を継いで四聖剣の風の席に就いていた。今二人いるのもその任務のため…ではなく彼女の元々の職業、考古学の調査のため。
今回彼女の目的地は魔の森、のもっと奥の獣人だけの国。人間とは関わったことはあまりない獣人たちが多く、
「防衛のため一応…獣人として行くため猫耳と尻尾をつけてみました! ……どうでしょうか?」と、くるくる回る。
――この辺エリザにそっくりだな。……本当に弟と話してるみたいだ。
と、思いながら「似合うぞ」と褒めてあげると照れている様が見えた。
今回、「俺も薬貰いに行くから」と獣人の国へ行くことを珍しくアナスタシアから提案し、フローゼを連れていくことになり今に至る。
魔の森には人間には毒の霧がある。アナスタシアは「大丈夫か?」と聞こうとした。しかし彼女が猫耳尻尾を披露してから防護服を上から着込み始めたのでやめた。
魔の森の奥。
そこに獣人たちが住んでいる国がある。そこは土の竜を筆頭に草や花そういう地の竜たちが守っている。
――魔の森でさえ、毒により人は奥まで入ることができないというのに蔦や土壁も使うとは……中々の鉄壁だな。
と、アナスタシアは飛びながら、関心していた。昔の獣人たちの、子孫を守る強い意志が見て取れる。
「わあ…」と、竜の背中から感嘆の声が。
「話には聞いていたのです。
青色の炎の山とクリスタルの森に囲まれた中に彼らの国があると。アナスタシア様やイザベラ様の島も素晴らしかったですがここも……!」
「ああ、すごいな」と、台詞を取るようにアナスタシアが反応した。
二人の住んでいる島も浮かんでいるがここもそれが段々になっており、所々に滝が虹を映し出している。下は更に渓谷となっており、下まで見えないくらいであったが、見える場はビルが立ち並んでいた。
滝から電気を貰い、地から火を貰うと昔イザベラが渡鳥の獣人から聞いた時行きたいと言って駄々こねた事があった。
そのあたりからあまり魔法に頼っていないのだろうと思っていたが、景色も技術も充実しているんだなと、アナスタシアが思い、「あれだ。クロ」と黒竜に降りる指示を出す。
入国管理は渡鳥系の獣人や両生類など様々対応できるように幾つか設けられている。
空の者は小さな空港のような場所が専用の場。
着地し、いつの間にか防護服を脱いでいるフローゼが降りると「空から見ていたら中々最先端ですね。楽しみです」と町へのワクワクが抑えらないらしく早くとアナスタシアを急かす。
「おまえはそこで待て」と、黒竜に。ちょっと寂しそうだったので「ちゃんと土産は買ってやる」と伝え撫でてやる。
入国手続き中、フローゼがキョロキョロするので、やめてくれと注意するとしょんもりした。心なしか付けた猫耳もヘタっている様。
この辺もエリザにそっくりだなと、思いながら処理して、管理官に「こいつは人だ」とこっそり伝えておく。
「わかりました。竜王様。
ただ、そう言う偏見はもう外の者くらいでしょう………なので外から来た獣人にのみ気をつけて頂きたい。会う事もないかもしれませんが…」
「わかった」とアナスタシア。
出口に向かいながらフローゼが「そう言う世の中を作りたいですね」と小声で、やけに神妙な顔で言った。
アナスタシアはそれに返事しないで町に出ると、隣から「ふああ‼︎」とまるでテーマパークに来たかの様にはしゃぐフローゼ。
……今さっきの真面目な話は? と、アナスタシアが思っていると、獣人の言葉をある程度学んで来たらしく、見渡す。
「あそこが今日止まる場所ですね」「あれは?」「げ、げーむせんた…?」「ああ!あの細長い乗り物?は?」「あ、あそこが薬局の様です!あそこですか?」「あちらの‼︎図書館‼︎」「明日いきましょう‼︎」
と矢継ぎ早に反応していくフローゼ。その様子に普段とのギャップに唖然とするアナスタシア。
彼女が興奮するのも無理はなくそこはビル群に、空中に映像が映し出されていて、馬の獣人の人力車タクシー、足の速い者達用の道路。
下や上にも小さい者などの道があった。
少し向こうには活動と休む場所を分けているらしく獣人の家々が内蔵された大きなカプセル状の物が浮いている。
楽しそうなフローゼに「ここだ」と少し呆れながら手を引き入る。
薬局のカウンターに「いつものは?」と、アナスタシアが聞く。
「竜王様、お久しぶりです。どうぞこちらにそちらは人族の方ですか? へー私初めて見ましたね〜」
と、店員が裏方に取りに行きながら喋る。フローゼが焦るも、「あっ、女性に言うのもなんですが、匂いで解りましてね…」と、フローゼの身なりを見ながら少し申し訳そうに言う。
「そうか」と、粉を受け取る。
そしてその衣装も意味を為さず、しょんぼりしているフローゼを見てしまいアナスタシアが笑いそうになり、「獣人たちの国が気になるみたいでついて来てな」と伝えてあげた。
「ああ、それでしたらではちょうど魂送りしてますよ? ……えっと、人で言うと…………」と、チラッとアナスタシアを見たので
「葬式だ」とアナスタシアが代弁した。
随分離れた丘、少し魔の森に近い場所がそれだった。薬局の者がタクシーを呼んでくれ、そこまで運んでくれた。
道中に、獣人の葬式は週末纏めてするという事を聞いた。
「だから知っていたのですね」
と、フローゼが呟いた。既に始まっているようで、邪魔にならない様に離れて眺めていた。
魔石が死体から出てしまうと、もう輪廻、来世を迎えられない。獣人も魔法が使えるから魔石になるのでは、と。何もしなければ魔石になって一生留まる――と。
そう言い伝えられていると言う。
だから、獣人が死に、墓に埋める時、別れの歌を皆で唄うという。
それは、まるで魔法の術式。
鎮魂歌。
祝詞。
アナスタシアもフローゼもその歌の邪魔にならないように耳を傾けていた。
魔法を強制的に発動させて、魔石を消費してあげる。そうすることで、魔の森の木のように永遠にあり続けることなく送れるという。
これが、獣人の葬式。
今回の故人たち夕焼けの中で橙雪を舞い散らせた。
俺はあれにはなれないな。とアナスタシアは羨ましくなり、一人悲しくなった。
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