第4話
*我が朱に染める*
タスケテ
タスケテ
という言葉が聞こえ、エリザベートは目を覚ました。
周りを見渡すと本ばかりが敷き詰められた自分の部屋で少しほっとする。
母の急死で寝付けず
…マザコン、……意外と自分マザコン
と、思いながら羽をうまくたたんで寝返りをうつ。
もうひと眠りとむにゃむにゃしようとしたが
付近で聞こえる「まさか、なぜ」とか「こっちに避難を‼」という声とともに咆哮やキンという金属音。時折水をぶちまけたような音に飛び起きる。
窓の外を見ると、空に黒い影が何体か整列して飛翔しているのが見え、この浮遊島にそれ以上の大きさの竜一体が降りているのがここからでも見えた。
また、それに対抗して何人か交戦の様。
さらになぜか数体、竜たちが止めに入っているように見受けられた。しかし無残にもその黒い竜に倒され肉塊と化してしまっていた。
「ど…どういう事?」
その光景にエリザベートが呟いた。
唖然として体が動かなかった。
目の前が真っ暗になる。
決して夜になったという訳ではない。
–––しまった
と、思った時にはもう遅かった。
その暴れていた一体の竜が舞い降りたのだ。
「–––…っっ」
と、声さえも出ない。
ただそれだけで、鳥肌が立ち、背筋が凍る。
彼が食らったのか、あるいは殺したのか。
亡霊たちが影のように蠢く。
その黒い竜は自我がないのか周りを朱に染め上げながら暴れて回っていた。
「…ひっっ」
その様子を見て、エリザベートがその亡霊の影に腰が抜け、後ろに下がった拍子に石に躓き尻もちをついてしまった。
それに竜が気が付き、エリザベートのもとに歩み寄る。その様だけ見れば知性がある竜だ、と錯覚してしまう。
その血だまりを歩いてくる。
例えば王が赤いじゅうたんを闊歩する様に。
エリザベートには走馬灯と共に、
――あの本は捨てたかったな
だって、エロ本だし
ナーシャには一回会いたかったな
なんだかゆっくりに見える…これが死ぬ直前ってことかな
せめて自分の能力だけ開花させたかったなあ
と、見えるすべてがスローモーションになり始めた頃。
「俺の弟に手を出すな」
――――パシャ…ビチャ……
と聞きなれた声と水の音が聞こえた。
竜の顔めがけて赤いナイフをいくつか投げたらしく、黒い竜が顔を背ける。
その数本は当たっていたようで、暴れだす。
『……ガアアアアァァァ‼‼‼』
血しぶきが舞い踊り、その中。
エリザベート、と瓜二つの者がいた。
「な、なーしゃああぁ…」
と、ナーシャと呼ばれた彼。天使族アナスタシア。
彼が竜の錯乱状態になったのを見計らって腰の抜けた双子の片割れエリザベートに近寄る。
「けがはないみたいだな」
と、ほっとする。
蒼白な顔をしたアナスタシアが声をかけた。
–––多分これは魔法のせいだ
と、エリザベートは思った。
天使族特有の血の魔法…さきほど放ったナイフのせい。個々でその性能効果は違うが、必ず血を用いなければならない魔法を使えた。
エリザベートはまだそれを使えなかった。
呼吸も少し荒れている兄に、
「ごめん…ナーシャ」と、声をかけた。
まだぼくが使えないから、と出かかった言葉を飲み込む。こう言うと怒られるからだ。
その代わりにまだ腰が抜けているエリザベートは足にしがみついた。
その様に苦笑して、
「気にするな」とアナスタシア。
そして未だに藻掻いている竜に向かって
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