第6話
*海に沈む明星*
いつものように海に照らされクリスタル状の浮遊島が美しく輝いていた。
いつものように朝は薄めのピンクに昼はオレンジ、
夕方は朱色、
夜は紫
と一日一日でそのクリスタルの表情は変化していた。
違ったのは、その周りを彩る竜たちとその島に住む人から羽の生えた__天使族が、
戦っていた。
真下から見るその様は神話のようだった
と、イザベラという人魚が大きな貝殻に空気の膜を張った中にいる包帯を全身に巻いている青年に語っていた。
しかし彼は、
「ふぅん」
とよくわかっていないような、あまり興味がないような返事を返した。
イザベラはそれでも
あなたは…
と、語りかける。
そして貝殻の周りを泳ぎ始める。と同時にその周りにある治療機などを点検していく。
「あなたはそれに参戦していたはずなんだけど
私見てたし
だからこそ、羽も右目も負傷して海に落ちてきたと思うのよ
覚えてる?
あなたの名前は?」
「わからないよぅ…」
痛々しい包帯を一瞥しながら
「そう、」と、イザベラ。
――流石に怪我人の、まだ気がついて間もないのに話すぎるのもまずいわよね
と、思いまた青年に言う。
「起きてからたくさん聞いてしまって…
ごめんなさいね
私イザベラっていうの
よろしくね
なんでも聞いて?痛みはもうないんだっけ?」
「うん」
「じゃあ、また後で来るわ
ゆっくりお休み」
「うん」
「あ、そうそう。
ここ海中だからあなたは息できないと思うから…
貝殻の外にはまだ出ないでね」
うん
と、子供のような拙い返事をもう一度聞いた。
そしてイザベラは貝殻の周りを見て、遠くにある街のような場所に向かって泳いでいった。
青年は人魚イザベラの姿が見えなくなるまで目で追ってから、風景を見た。
イザベラの注意を守りながらその海底を見た。
この貝殻の周りには海藻。
人魚イザベラが向かった先には珊瑚礁の彩りのある街が。
密集しているせいかもっと遠くからみれば城にも見えるような街。
少し離れたところには、大きな泡の中に建物。
それが点々と。
発光性のある害のない魔物や魚がうろついているせいか海底にある割に地上の昼並みに明るかった。
その風景を、
「わあぁ……‼︎」
と、楽しそうにした。
あくびを一つ。
はしゃぐ青年自身の身体が回復の為睡眠を欲する。
その睡魔に逆らえず青年は眠りについた。
✴︎✴︎✴︎
青年は夢を見た。
――ここは?
と、思いながら周りを見渡す。
周りには腰の丈くらいの穂が一面広がっていた。
そして夕暮れの日差しが強く逆光で誰かはよくわからない。
しかし向こうの方が背丈も高い。
全体を見ようとしても陽炎の様に霞む。
金髪で、多分ツノが生えているくらいしかわからなかった。
その人物と青年が並んで歩いていた。
ある筈の恐怖はなかった。
安堵感さえ生まれた。
安心感はあるとはいえ、空白の多い頭ではあまり考えることができず、
誰?
と青年が聞く。
返答はなかった。
変わりにその穂畑を歩み進める。
黄金の波に流されないようについていく。
逆光で影になっているにも関わらず悲しんでいるということが伝わってくる。
その感情をかき消すかのようにその影の人物が頭を振る。そしてこう続けた。
「ここも変わらないな……
おまえも随分と成長したな
ああ、そうだ
ごめんな?
痛かったろう?」
と、青年の頭を撫でてから影はその黄昏に溶けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。