第11話
*業火に消える*
暑い……と、アナスタシアが呟く。
ここは火竜の地。
瓦屋根の城下町が連なる先、大きな山がある。活火山らしいが、火竜のおかげで噴火はしないという。
この麓に火龍の寝殿造りがあるという。それも、竜の大きな体に合わせているので、この島国に着いてからすぐに分かる様になっている。まるで、威厳を保つように。
御簾や几帳なども竜に合わせて大きく作られており、シルエット越しにしか見えずより神聖化していた。時折息と共に火を吹くのがまた下々に畏怖の念を植え付ける。
そのため、常にこの国に訪れる全ての人はかの竜に平伏していた。
アナスタシアもまた正座で火竜––––
処断がどうのこうの言っていたな…
暇なので謁見の場になっているというこの大広間を見渡す。目の前にも几帳がかけられており、こちらからは一切見えない。
竜仕様なため、めちゃくちゃデカい。
横にはおそらく世話役等人間用であろう扉がある。
あちらは通路か、神の後ろを歩いて世話することさえ憚られるのだろうか?
人間も大変だな
と、アナスタシアは思った。
小さな島がこの島国に幾つも点在している。そこにも火に因む竜や眷属が治めているという。
そして島には世界の全ての竜の廟、小さな社が建てられているという。
人間たちの定めた魔法基礎四元素の筆頭の火を司る竜だから、この島国自体が神を大切にするため等説話は多岐に渡っている。
きっと歴史家や冒険家たちには垂涎ものだろうな
エリザを思い出す。
思い出してしまい、気を乱さないよう少し服を握りしめた。
概念の竜、既に亡くなった竜の神社もあるらしく、それもアナスタシアがここに訪れた理由である。
邪龍のものがあるかも知れないな
資料があれば良いのだが…
あるとしても、童話くらいかもしれないな…
探す価値はある、か。
と、考えていると
「息災か、邪竜どの」と、
身なりも髪飾りも神々しく、
手足はクリスタルとなっていて腕輪をしていて、
白髪はまるで燃えている様。
天冠に白い千早、ぱっと見巫女装束の褐色の男、が戸張を上げてアナスタシアに挨拶した。
––––これが火竜か?
アナスタシアがぽかんとしていると、人、ではなく炎を纏った所謂イフリート二体がアワアワとした様子が戸張越しに見えた。
主が自由人大変だなぁ
そう思いながら「まあ…」と、アナスタシアが返し「処断お疲れ様でした」と、とりあえず労っておく。
「ああ…
新入りだ
人外になってまで俺様を世話したいって」と。続けて「そりゃ、人間だと燃えちゃうから近くは寄らせんけど……」
ドン引きだと一言添えた。
その後ろのイフリートがそうらしく、どうやら火竜の元で働きたいとか言う者がわざと罪を犯すのだとか。
うーーーん、と唸るアナスタシア。
分からんなと、心の中で彼らを肯定しておいた。
戸張から完全に出て適当に座り
酒を、と焦るイフリートらに一言。
––––して、鬼たちのことだが、と火竜。
自由だなぁと思いながら、
そのために来たのでと、酒を受け取りつつアナスタシアが答える。
「助かる
貴殿が彼奴の後継みたいなものか」
「ああ、まあ…ここの鬼人たちは?」
「海を渡って少しばかり行った小島に住んでいる
武人が刀と共に抑えてはいるが、向こうの方が強い」
「刀…?」と首を傾げる。
「ああ、他の国の戦いは知らんが
刀はまあ両刃ではなく片刃で少ししなりがあるものでな
それに精霊…ここじゃ付喪神と呼んでいるがそ奴らが人型になり具現化して持ち主と共に戦うのだ」
「へぇ…」と、アナスタシアが。
続けて、「今後は御目通りせずその小島に行かせてもらいますよ」と、言う。と同時に
この竜面倒くさいし、寝転がってるし…急に泳ぐとかいいそうな奴だし
と、心の中でボロクソになじる。
「構わん」
「それが約束だからな」
そう言ってから
やっぱり既視感があるな
こいつと初対面なはず
火竜と飲むのも…久しぶりな気がするな
と、その思いかき消すように酒を飲んだ。それを見て、「まあ明日から頼むぞ。今日は無礼講」と火竜もにこりとして酒を。
まあ明後日でも…と、呟いた。
外は夕暮れかそれとも彼の炎なのかわからないくらい赤く染まっていた。
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