第2話
*あの昏れまで届け*
「待って待ってーー!」
茜色の中。
黄金の穂にひょこひょことその穂と同じ色の髪の色をした子供が叫ぶ。
まだ背丈がなく、走るたび頭がたまに草から出てくるからこそ場所がわかった。だから、同じ容姿の子が、やれやれと、ませた感じでその声の主を待った。
「ナーシャァ…」
「母さまが呼んでいるから早くしてよ」
「だってぇ……
いっぱいお花さん、あったから」
「あ!! 母さまにあげよ?」
「そのつもりだけど」
その言葉を聞くか聞かないかする内に待っていた方、エリザベートはまた来た道を駆け出した。それに若干呆れ顔をして愛称の方であるナーシャと言われた、アナスタシアは、
「待ってるからーーー!!」と、聞いているかわからないエリザベートに向かって大声で言った。
なるべく花を枯らさないよう持ちつつその花を眺めているとすぐにエリザベートが帰ってきた。
アナスタシアはその両手に持っている物を見る。
「お花さんじゃないね」
と呆れた顔をしながらアナスタシアが言う。それは何かの実だった。小さな両手で抱えなければならないくらい大きな実。
「卵かもしれないよ」とぼやきながらエリザベートは少しむっとする。
「そして行くよ」
と、アナスタシアに言い、二人は帰って行った。
時折アナスタシアがその実をちらちら見てはエリザベートが「どうだ」と言いたげな顔を見て今度はアナスタシアの方がむっとする以外は何もなかった。
***
洋館のようなあるいは中風とも思える。そんな雰囲気がある立派な家に腰から羽を生やした母親が彼らの姿が見えると、
「あら私の可愛い天使たちだわ」
と言いながら手を振ってきた。
その後で鳥の獣人がそれを微笑ましく見つつ、
「ではまた」
と、言いながら羽ばたいていくのが二人に見えた。外の世界に興味があるエリザベートは「あーあ」と言っていた。
「また来るだろ」
「だって、あの人はもう来ないかもしれないじゃん」
そう残念がるエリザベート。
家が立っているところは空中に浮いていて浮遊島とも呼ばれている。
気流でさまざまな空には行き、その地域の気候によって季節的なものも変わる。そしてそういう島だからこそ飛べる獣人や魔物などの休憩地としても大いに役立っていた。また行商人も飛ぶものさえあればこの島へ行っていた。
だからここの島の建物はさまざまな文化を吸収した奇妙なものが多かった。
そして何よりここには人でいう天使の一族のみが住んでいた。
そのため天使が崇高な存在だと言われている地域の上空に来た時は貢物的なものが沢山振る舞われたし、そこにしかない物もくれた。そういうそこにしかない文化物や旅人たちの話を聞くのがエリザベートは好きだった。
落胆するエリザベートをよそにアナスタシアは母親に駆け寄り「はい、お花さん」と、花を渡した。
母親はしゃがんで駆け寄る二人を両手に抱き、頭を撫でる。
「母さま、摘んできたのあげる」
「あら、ありがとう。
可愛らしいわ…」
そういって、アナスタシアから受け取った花を彼女は先程行商人からもらった箱から小さめの花瓶を手に取った。そして、少し指を噛み血を滴らせるとそれは水となって潤した。
「わあ」
「見せたのは初めてよね?
私たち天使族は血を媒介にして魔法が使えることは話したかしら…私はこれよ。
水とすることができるのよ。
ナーシャもエリザも…あなたたちは何かしらね…今から楽しみだわ」と、二人の母が教えた。
「早く使いたいなあ」
「母様これ!!!!!!! みて!! あげる!!!」
話の途中で今度はエリザベートがよくわからない拾った実をあげた。
「話に夢中になっちゃった…ごめんなさいね。エリザ」と言いながら今度は右を向きつつ隣にいたエリザの頭を撫でながら彼が持っているそれを見ながら聞く。
「な、何かしら?」
「実」
「ふふ、それはわかるわ。そうねえ…」
と言いながらその実をみてもしかしたら、
「そうね…もしかしたら……」と何か呟き考えている母親に?と二人の頭に浮かんでいると、
「ヨイショ」と実を抱きしめ急に飛んでいった。
飛んでいった母を驚きながら見ているとそれとその実を空中島の下地上に放り投げた。
「「ええええええええぇ?!」」
とエリザベートたちが叫んでいると、母親が降りて来て説明を始めた。
「ごめんね、エリザ。ナーシャはわかったかもしれないけど、
もしかしたらあれ大樹の実かもしれないのよ」
「あっ! そういえば……!
じゃあ大きくなるね。エリザ、あれ多分この島の高さまで育つよ!」
「この島にあったのは多分魔物が食べ物保管のためと思うけど、あの実硬いから諦めたのね。それにこの島じゃ小さすぎると思って、ね。もしエリザがまだ世界を見たい、旅したいと思ったらあの実を是非見つけてほしいわ」
「今の場所どこ?!」
「だめ!!! ちゃんと旅して探しなよ」
エリザベートが今の島の位置を確認しようとするもアナスタシアに静止されてしまった。こうしている内にも下を頑張って眺めても、もはやどこに投げたかわからなくなってしまった。
日が暮れていく中。エリザベートは地上により行きたくなり、早く旅してみたい、成長したい。と、言う一心で。
背が伸びたら大人というよくわからない理屈を胸に、鉄棒にぶら下がりながらその暮れを眺めた。あと何回この空を見たら辿り着くのかとても楽しみにしながら。
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