第11話 一方通行①
少し遠くの方で、誰かの絶叫が聞こえた。
近くでは、メルヘンな音楽が流れている。
俺は今、遊園地にある休憩所の白い椅子に座って、透明な容器に入ったストロベリー味のアイスクリームを片手に持っている。
今度の日曜日に、遊園地に行こうと提案したのは俺だった。メンバーは俺とサラと真崎と長月の四人だ。
「遊園地なんて、ガキの行くところだ」
なんて真崎は言っていたけれど、結局は一緒に行ってくれる優しい奴だ。
たまたまバイトが入っていなかったから。なんて言っていたけれど、みんなと一緒に遊びたかったんだろうな。
サラは面倒そうな返事だったけれど、長月が行くと言ったとたん行く気になって、一緒についてくることになった。
「ジェットコースターに乗る人、手を挙げて」
アイスを食べ終わってころ、俺は先生みたいに言いながら右手をあげる。
「はい」
と言って、手をあげたのはサラひとりだった。
今日のサラの髪型はポニーテールだ。とても似合っている。
「俺はいい」
と真崎が明後日の方向を見ながら言う。
「わ、私も……」
長月は、眉をよせながら言った。
彼女がそう言うだろうことは、なんとなく予想がついていた。
こういうの苦手そうだもんな。
「おいおい、何これ。自然に二人になれるのかよ。つまらん」
意図したことではないが、俺は内心嬉しく思いながら言った。
もしかしたら顔に出ていたかもしれない。
「お前、ここは喜ぶところじゃないのか?」
と真崎につっこまれたが、
「俺はもっと障害があった方がいい!」
と俺は答えた。
正直、真崎が乗らないと言うとは思っていなかったのだが。
「あっそ」
サラは、どうでもいいとでも言いたげだった。
まぁ、よしとしよう。
ということで、俺とサラはジェットコースターに乗りに行くことになった。
そして、真崎と長月は近くのベンチに座って待っているらしい。
「あの二人、大丈夫かな」
順番待ちで並んでいる途中、サラが呟くように言った。
珍しいと言えば、珍しい組み合わせではあった。
真崎も長月も、口数は少ないほうだから少し心配ではある。
「大丈夫だと思うけど」
俺が言うと、サラはふと何かを思い出したかのように「そういえば」と言った。
「真崎って、普通にジェットコースター乗れたっけ」
続く言葉に、俺は思い出してみる。
「乗れるって言ってた」
中学生のころに、聞いた気がする。
「じゃあ、やっぱそっか」
サラが、何かに納得したかのように言った。
「え?」
俺は首を傾げる。
「優しいなぁ。真崎は」
サラの言葉に、俺はやっと理解した。
「ああ。そういうことか」
真崎の気遣いだ。
長月がジェットコースターを苦手だということを隠して無理しないように、真崎は乗らないと言ったんだ。
サラはこういうの大好きなほうだし乗りたいと思うけれど、長月のことを考えると、やっぱり乗らないと言うだろうし。
二人に気を遣わせないように、真崎が気を利かせたのだろう。
「そういうこと。ほら、もう次だぞ」
「ああ」
俺はサラに促されて、前に進んだ。
***
ジェットコースターが一周し、戻ってきたころ。
真崎と長月は、何かを話している様子だった。
俺とサラはそれに安堵して、普通に二人のところへ戻った。
「お待たせー。二人とも」
サラが言いながら、駆け寄る。
「おかえり。楽しかった?」
長月がほほ笑みながら言った。
「うん。マジ、やばい」
とサラが返す。
それじゃあ、何も伝わらないだろう。と俺は思う。
実際のやばさは、なんていえばいいか俺にもわからない。
絶叫系は、乗った人にしかその楽しさはわからないだろう。
「真崎も乗ってくれば? 俺たちここで待ってるし」
俺は提案してみる。
「いや、いい。それより飲み物買ってくる」
真崎がそう言って、ベンチから立ち上がる。
「あ、うん」
俺は返事をしたが、なんだか真崎の様子がおかしいことに気づく。
――なんだ。なんか違和感が。
「何かあったのか」
真崎が売店に飲み物を買いに行っている間。俺はそれとなく長月にきいてみようとしたときだった。どうやらサラも何かを感じていたらしく、先に問われてしまった。
「えっと。実はさっき。真崎くんのバイト先の店長さんに会って」
衝撃的な事実だった。
真崎のバイト先の店長と、こんな場所でばったり会ったというのだ。
「え? ひとり……なわけないよな」
俺は確かめるように、そう聞いた。
嫌な予感がする。
「うん。婚約者の人と一緒に来ていたみたいで」
と長月が答えた。
「あー」
俺とサラはほとんど同時に、頭を抱えた。
「それは、やばいな」
今日一番やばいのは、ジェットコースターではなく、真崎のバイト先の店長だったらしい。
「え? どうして」
事情を知らない長月が困惑している。
俺はサラに目配せする。
事実を言っていいものかどうか、迷う。
本人が長月に何も言っていないのなら、俺たちの口から言うことじゃないかもしれない。
「好きだからだよ」
いつの間に戻ってきていたのか、声がしたほうを見ると真崎がいた。
「俺が店長のことを、好きだからだよ」
言葉にすることを恥ずかしがるでもなく、ただ真崎はそこに立っていた。
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