第19話 大好きな幼馴染の家には…②
真崎琢磨に、一緒に長月家へ行こうと誘われた俺は、何故自分なのかと考えていた。
長月姫と連絡が取れないとか、トリプルデートに誘うためとか、そんな単純な理由ではないのではないかと思った。何故ならそれは、真崎ひとりで行っても問題はないはずだからだ。何を考えているのか、俺にはわからなかった。
長月の状況も、わからない。今の彼女なら大丈夫だと思って送り出したのだが、間違いだったのかもしれない。今なら断言できる。彼女は、前原の家にいることが最善だった。
どんな理由があったにせよ、長月の父親が娘の預け先に前原家を選んだのは正解だった。
色々と考えることが多くて、その日の夜はよく眠れなかった。
気が付いたときには朝で、夏布団をかぶっていなかった。暑くて蹴とばしていたみたいだ。
部屋のカーテンを開けると、向かいの窓から見えるサラの部屋のカーテンは、閉まっていた。まだ寝ているのか、起きているのにカーテンを開けていないのか。どちらなのだろうと思った。
ここしばらくサラの顔を見ていない。
***
俺と真崎の二人は、前原家にいた。俺たちはまず、サラの父親。おじさんに長月姫の様子を探ってほしいと頼むことにした。
おじさんは嫌がることもなく、引き受けてくれた。長月の事は、おじさんも気がかりで、心配していたらしい。電話をかけてくれることになった。
しかし、俺たちは夏休みだが、長月の父親は平日の昼間は仕事中だ。携帯電話にかけても繋がらない。長月家は共働きで、母親も仕事で家にいないそうだ。長月姫本人が出るかもしれないと、家にかけるが、家の電話も繋がらなかった。
結局、長月の家に行くしかなさそうだった。
おじさんは長月の父親にメールを入れ、俺と真崎はおじさんの車に乗せてもらい長月家へ行くことになった。
「おじさん。仕事は大丈夫なのか」
ふと俺が聞くと、おじさんは笑った。
「このままでは、気になって仕事に集中できないよ」
それもそうか。と俺は思う。
長月家は、前原家から車で10分という距離にあった。
おじさんはその間、長月がどうして前原家に住むことになったのか、ことの経緯を俺と真崎に話してくれた。
そもそも長月の父親、長月和男と前原の父親、前原敬一郎は高校時代からの親友で、たまに連絡を取り合っていたという。
娘の年齢も近いので、いつか二人も一緒に会おうという約束はしていたが、互いの仕事が忙しくそれは叶わなかったらしい。家もそれほど遠くなく、学年は違うが学校は同じで、進学先も一緒だったので、いつか娘たちが自然に出会うことを期待してもいた。
しかし長月姫が留年してしまったことを、おじさんは最近まで知らなかったらしい。
長月が前原家に来たあの日。前原家に一本の電話が鳴った。
それはおじさんの親友、長月からの久しぶりの電話だった。
「もしもし?」と電話に出ると、長月は開口一番に言ったのだそうだ。
「前原。助けてくれ。もう限界だ」
長月和男の声は、かなり疲弊していたらしい。
事情を聞くと、娘の姫が、一年ほど前から学校を休みがちになり、出席日数が足りなくて今年は留年してしまったという。二度目の高校一年生をやることになって一か月は何とか通っていたが、今度は妻が鬱になってしまって、今は実家に帰らせているが、妻が元気になるまでの間に今度は俺も鬱になってしまいそうだ。
「娘を預かってくれないか」
震えた声で、長月和男はそう言ったのだそうだ。
そんなのおじさんの人の良さに付け込んだも同然だったけれど、俺は怒る気にはなれなかった。
ただ考えていた。長月姫は一体どんな気持ちで車に乗っていたのだろうかと。
「だからどうか、彼らを責めないでやってくれ」
おじさんは、俺と真崎に向けてそう言った。
「大人はいつも、精一杯なんだ」
***
長月家の駐車場には、薄いピンクの車が停まっていた。それは先日前原家に停まっていた車とは違うものだった。
客でも来ているのだろうかと言いながら、おじさんはその横に車を停める。
淡色系の建物のわきには花壇があり、色とりどりの花が植えられていた。
車を降りた俺と真崎は、緊張しながら玄関のチャイムを鳴らす。しばらくすると、見知らぬ女性が玄関の扉を開けた。
「はいはーい。どちらさまですか」
快活そうな女の人だった。彼女は元気よくそう言いながら出てきた。
俺たちの姿を確認すると、不思議そうに頭を傾げる。
歳は二十歳ぐらいだろうか。長月の母親によく似ているなと俺は思った。
「俺たち、長月姫さんに会いに来たんですけど」
俺がそう言うと、その人は驚いたように目を見開いた。
それから「あー」と言って困った顔をして言った。
「ごめんね。私、さっき帰ってきたばかりで、妹が家にいるかわからないんだ」
俺は首を傾げる。
「妹? お姉さんですか」
俺の質問に、その人は頷いた。
「そう。夏休みって聞いていたから、一応ただいまーって言ったんだけどね。返事がなくて。妹の部屋、二階だから声が届かなかったのかも。ところで君たち、あの子のお友達?」
「そうです」
「やっぱり。でも意外だな。君みたいなタイプと友達になるんだ、あの子」
長月の姉の言葉に、俺は少しだけむっとする。
おそらく、俺のこの髪の色を見ての感想だろう。
「どういう意味ですか」
ときくと、長月の姉は慌てた。
「ああ、ごめん。悪気があったわけじゃないんだ。そっちの君も睨まないで」
長月の姉はそう言いながら、顔の前で両手を合わせた。
真崎のほうを見ると、不機嫌そうな顔をしていた。
「まぁまぁ。とりあえず、家に入れてくれないかな。お嬢さん」
後ろから声がきこえて、俺と真崎はほとんど同時にその方向を見た。
車を駐車し終えたおじさんがにこやかな表情で、立っていた。
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