大好きな幼馴染の家には居候がいる
黒宮涼
プロローグ
プロローグ
俺には幼馴染の女の子がいる。
家が隣で、俺はいつも彼女の言いなりだった。
彼女は気に入らないとすぐ俺の頭をぐーで殴るからだ。
きょーぼー女ってクラスメイトから呼ばれている。
ある時、俺はお母さんから変な形したみかんを貰った。
段ボールの中にずっと閉じ込められてて、箱の下の方で押しつぶされていたみかんだった。
お母さんは近くの八百屋で働いていて、いつも売れ残りを貰ってきてくれるのだけど、今回がそれだった。
俺はこの時、あることを思いついた。
このみかんを、幼馴染の女の子に投げつけてやろう。
食べ物を粗末にするのはやめなさいと怒られそうだから、お母さんには内緒ね。
俺は早速みかんを持って幼馴染の家に行った。
家は隣でも、家の大きさが違うのも、また悔しい。
チャイムを鳴らしたら、おじさんが出た。
どうやら幼馴染は家にいないらしい。
俺は探すことにした。
早くあいつのみかんの汁の付いた歪んだ顔を見てみたかった。
その後が怖いけど、たまにはこうして反抗しないと、それもまた殴られるのだ。
探すとは言ったけど、当てがあるわけじゃない。
とりあえず近くの公園を探してみるけど。
と、公園にいた――。
「あ、サラちゃ――」
俺が幼馴染に声をかけようとした時だった。
「お前の目の色とか髪の毛とか、気持ち悪いんだよっ」
「そうだそうだー」
「悔しかったら俺たちとおんなじ色にしろよ。何なら今度習字の後に墨汁頭にかけてやろうか」
「うははは。それサイコー」
二、三人の男の子が、幼馴染に向かってそんなことを言っていた。
「てめぇらぁ」
しばらく黙っていた幼馴染が、我慢しきれなくなったのか、拳を振り上げて戦闘態勢に入った。
「うわー!前原が怒ったぞー! にげろー!」
「こええー!」
そうは言ってもやはり幼馴染に殴られるのが怖いのか、男の子たちは逃げていった。
行き場のない幼馴染の拳は、そのまま自分の顔に当てられた。
俺は幼馴染の後ろ側にいたから、泣いているのかどうかわからなかったけど。
俺は手に持っていた変な形のみかんを見つめた。
流石にこの状況で、みかんを投げつけるのは空気読めてないよな。
俺は声をかけようか迷ったけど、こういう時だからこそ、声をかけた方がいいと思った。
俺は勇気を出した。
「サ、サラちゃん!」
「――っ何だ、お前か。何だよ?」
ショートカットの幼馴染が、俺の方へ振り向く。
初めて見た人は彼女のことを、女の子だとは思わない。
泣いてはいなかった。
涙の跡がなかった。
だけど泣きそうな顔をしていた。
「あ、の……」
俺は言葉に詰まった。
なんて言ったらいいんだろう。
とりあえずみかんあげるって言って逃げようか。
「もしかして今の見てたのか?」
「う、うん」
俺は正直に頷いた。
「ばっかでー。そう言うときは嘘でも見てないって言えよ。ったく気を使えよな」
幼馴染がそう言って、笑顔を作る。
「だって。サラちゃん、いつも言うじゃん。何でも正直に言えって」
俺が言うと、幼馴染は呆れたように空を見る。
「ばか。ホントばか」
そうして何度もばかと呟く。
俺がそのことをちゃんとわかりだしたのは、いつからだったんだろうか。
俺の幼馴染は、イギリス人と日本人のハーフだ。
おじさんは日本人で、おばさんがイギリス人。
幼馴染は、髪の毛も目の色も、肌の色さえも薄く、俺らとは少し違っていた。
それはハーフなのだから当たり前だ。
当たり前だけど、俺はさっきみたいに幼馴染のことを悪く言う奴らは許せない。
何が気持ち悪いんだよ。
「俺はっ、綺麗だと思うよ!」
「は?」
俺の発言に、何の話と幼馴染がこちらを見る。
「その茶色い髪の毛の色も、青っぽい目の色も、白い肌の色も! 俺はきれいだと思うし! 好きだよ!」
それが、俺の正直な気持ちだった。
「それに、おばさんのもきれいだと思うよ! あんな素敵なお母さん他にいないよ!」
「リョーヘイ……」
「だからさ! ん!」
僕は幼馴染の前に変な形したみかんを差し出した。
「何これ」
「見てわかるとーり、みかん!」
「そんなことはわかってんだよ! このみかんをどうするんだって意味だよ!」
拳を振り上げる幼馴染。
殴られると思って俺は目をつぶる。
が、何の衝撃も来なかったので俺は恐る恐る目を開けた。
「くれるのか? それ」
「うん。あのね」
俺は頷いてから言った。
「このみかん、形へんでしょ? でも、みかんなんだよ。見てわかるとーり」
「それはわかるって、さっきから――」
「それとおんなじだよ」
そう、おんなじだ。
「はぁ?」
幼馴染は俺の言っている意味が理解できないようなので、俺はもう一度出来るだけわかりやすく言う。
「だから、このみかんはこんな形してるけど、みかんなんだよ。サラちゃんも、他の人とは少し違うかもしれないけど、それでも人間ってことには変わりないでしょ? サラちゃんはサラちゃんだし、このみかんもこのみかんでしかない。代わりはないんだよ」
俺の言葉に、幼馴染はしばらく驚いたような顔をしていた。
「ん……ありがとう」
照れたようにそう言う幼馴染の顔を見て、俺は、彼女にこのみかんを投げつけようとしていた自分を恥ずかしく思った。
それから、みかんを二人で仲良く分けて食べた。
明らかに幼馴染のほうが実を多く食べていたのは、気にしないことにする。
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