第7話:彼女と仲良くなるための協力者

 江住さんの取説をみたら、好きなものの中にこんなものがあった。



―――

好きな物

少女マンガ(XXXXXX、XXXXXX、……)

―――



 具体的なタイトルがいくつか挙げられている。これはいい。かなりいい。うまく話を引き出すことさえできれば、「え?江住さんもXXXXXXがすきなの? 僕も」なんて手軽に共感できるからだ。


 そして、「少女漫画好き」に心当たりがあった。そして、すぐのその門戸もんこを叩いたのだった。



 *



恵美めぐみー」



 恵美は、妹。中2の少し難しい時期の妹だ。部屋のドアはノックしないといけなくなったし、勝手に部屋に入るのは以ての外だ。



「……なんですか?」



 ガチャリとドアが開き、心底 僕の訪問が嫌なイベントであるかを示している返事だった。


 恵美はこれまでショートカットだったけれど、最近 髪を伸ばし始めていた。まだ中途半端な長さで、肩までの長さがない。


 ショートとロングの境というか、おかっぱ頭みたいになっているけど、それを言うと鳩尾を殴られると知っているので絶対に言わない。



「実はお願いがあるんだ」


「なんですか?」


「お勧めの少女マンガを教えて欲しい。ついでに何冊か貸してほしい」


「……」


「ついでに、少女マンガ好きな人にお勧めできそうなヤツも教えて欲しい」


「詳しく話を聞きましょうか」



 ガチャ、とドアを開けて恵美が出てきた。


 結局、部屋には入れてくれないので、リビングのテーブルで話をした。取説のことは伏せて、クラスの女子に話しかけて友達になりたいのだと言ってみた。



「それって、恋!? 恋バナ!? 兄さんにも春が!?」


「いや、まだそこまで行ってない……」



 恵美が、めちゃくちゃ前のめりで目をキラキラさせてきた。


 さっきまでのめんどくさそうな態度とは180度違う。なにが彼女の琴線に触れたのかは分からないけれど、協力してもらえる事になった。



「とりあえず、この3冊を押さえといて! 基本だから。」



 少女マンガの「基本」とは!? 訳が分からないけれど、とりあえず出された本を1巻から読み始めることにしよう。


 一応、取説のリストで見たことがある本だった。たしかに、恵美が言っていることは間違えていない。



「これらは読んでみるけど、少女マンガ好きの人に提案できる意外な1冊も欲しいんだけど……」


「難しいことを言いますね……あ!レトロなヤツはどうですか? 名作だけど昔のヤツ。それでいて、今でも色あせないような……」


「そんな都合のいいものある?」


「そんなの、いくらでもありますよ♪ 『動物のお医者さん』とか『ぼくの地球を守って』とか『花より男子』とか……」



 珍しく恵美が饒舌だ。「いくらでもある」と言った定番は本当にいくらでも出てきていた。



「角川のはないの?」


「レトロな少女マンガだと角川文庫はないですよ?」


「そうなんだ」


「兄さんは角川が好きなんですか?」


「ん、まあ、色々あって……」



 色々知らないことばかりだ。やはり、少女マンガに詳しい恵美に話を聞いておいてよかった。危うく付け焼刃で大恥をかくところだった。



 ***



 僕は、恵美に借りた本を1巻から読み始めた。これで明日、江住さんと話す話題ができる。


 ……ちょっと待て。これだと前回の猫の話と同じだ。もう少し深堀して知っておかないといけない。同じ失敗は何度も繰り返してはいけないのだ。


 僕はマンガを一旦置いて、江住さんの取説を見て確認した。



「やっぱり……同じ間違いをするところだった」



 僕は、「コンプレックス」の欄に見逃してはいけない記載があったのだ。

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