第6話:好きな子と仲良くなる方法
「
突然手に入れてしまった、僕が好きな女の子の取説。最初は疑っていたけれど、これは本物だった。
江住さんのことが事細かに書かれている。僕は、改めてこの冊子を読み込むことにした。
これまでに取説をこんなに真剣に読んだことがあっただろうか。スマホの取説だって読んだことがない。知らない機能なんていくらでもあるし、それを知らなくても悔しい思いなんてしたことがない。
ただ、この江住さんの取説は違う。
彼女と仲良くなるために僕はこれで彼女を知る。たくさん知ることで彼女と仲良くなる!
僕に友達がいたのは主に小学生の頃。そんなに多かったわけじゃないけれど、少なくもなかった。
中学になって友達はあまりできず、高校でもそうだ。
僕はどこかで「友達の作り方」を見失ったのだ。では、逆に何が違うのか考えれば友達の作り方を見出すことができる。
その方法を使って、僕は江住さんと友だちになる!
この日、僕は小学校の時の友達のことを紙に書いた。山田くん、吉崎くん、佐野くん、思い出せるだけ思い出し、次々紙に書いてみた。1人1枚使って。
そして、彼らについて知っていることを、各紙に書いて行った。僕の思い出を全部紙にまとめていく感じだろうか。
それは、中学校の時の友達……というかクラスメイトについても同様に行った。思い出せるだけの人数。
……中学校の時のクラスメイトは幸か不幸かそれほど思い出せなかったので、この作業はすぐに終わった。
そして最後に、高校。今のクラスだ。クラスメイトについて1人に1枚使って書いて行った。これを仮に「プライベート・データ・シート」…略してPDSとしよう。
全てのPDSを書くのに1時間以上かかった。そして、そこで気づいたのだ。
僕は小学校の時の友達のことの方が今の友達のことよりもたくさん知っているってこと。
小学校の時の友達のPDSにはたくさんの情報が書かれている。それだけ、僕は彼らのことを知っていた。たくさん話したし、たくさん遊んだ。
一方で、中学以降の友達のPDSは白いままだった。名前ともう1項目くらい。それ以上埋まらなかった。何も知らないのだ。
僕は小学校の時の友達には心を開いていたし、今の高校のクラスメイト達には少し構えている所がある。
その理由を考えると、中学時代のいじめにあった。別に殴られたりしたわけじゃないけど、ずっと無視されていた。多分理由なんてなかったんじゃないだろうか。
その無視が始まるまでは仲良くしていたヤツらも次第に無視するヤツらの仲間になって、僕はクラスで孤立するようになった。
「それでもいいんだ。僕は一人が好きなんだ」と自分に言い聞かせてきた。だから、今のクラスでも友達がいなくても別に大丈夫。
……だと思っていた。
今は違う。正直言うと違う。その理由は、江住さん。
江住さんと仲良くなりたい。
そのためには、僕は江住さんに心を開く必要がある。そして、PDSに書き込めるような情報をたくさん手に入れる必要がある。その点は、この取説がある。
その他には、会話する機会を増やすこと。その時は、話すよりも聞くことに重点を置く。
そして、もっとも重要なのが相手との共通点を見つけ、共感することだ。
これは、取説で事前に知ることができるから僕にとってはかなり有利と言える。江住さんとの共通点となり得そうなものについて、我が家に思わぬ援軍がいることに気がついた。
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