第24話:餅は餅屋

 正直、走るのが速い人にちょっとくらいアドバイスをもらったところでそんなに劇的に変わるとは考えていなかった。


 ところが、加留部さんはかなり優秀だったらしい。練習方法とアドバイス実に的確だった。


 まずは、僕が走っている所をスマホで撮影してくれた。そして、それを見せられた時 僕は驚いた。


 自分でイメージしていた以上にぶざまな走りだったのだ。



「確かに、速い走りの動きじゃないわね」


「分かる……」



 ただ単に言われたら単に罵倒だったけど、映像で見せられた僕としては納得せざるを得なかった。



「まず、筋肉がすごく緊張してるみたいだから、手はパーにしてみようか」


「パー……」



 走る時は「グー」だと思っていたけど、「パー」の方が変に力が入りすぎないらしい。



「後は、宇留戸くんはしっかり蹴ろうと思って、1歩1歩がドッスン、ドッスンって感じかな」



 たしかに、しっかり蹴った方が速いと思って蹴ることを意識していた。



「もっと、ばねみたいになってボヨンボヨンと飛び跳ねるイメージで……その場でちょっと飛んでみて」


「ボヨンボヨン……?」



 言われるがままに、その場でばねをイメージして飛び跳ねてみた。



「そうそう! いいね! 走る時は、前に進むから、その調子で、飛ぶ方向を前にする感じ?」


「うーん……」



 イメージがつかなかったので、実際にやってみた。



「どうだった?」


「そう! そんな感じ!」



 たしかに、ちょっと速く走れた感じというか、軽くなった感じはした。



「あとは、体型的にこんな選手のフォームとかを参考にして……」



 僕の体型に似ているという有名な陸上選手の動画を紹介してくれたので、それを見て研究することにした。


 ここまでやってもらえれば、あとは僕が頑張る番だった。帰りの電車で一人になったら動画を見て、イメージトレーニングをした。


 家に帰る前には近所の公園で走る練習をした。今まで、走ったり飛んだり練習したことはなかったので、新鮮だった。


 でも、目的をもって動くの悪くない。2、3日練習して、その成果を加留部さんに見てもらう。タイムもスマホがあれば計ることはできる。もちろん、制服なのでベストタイムとはいかないけれど。


 そして、1週間後の体育の時間を迎え、練習の成果を発揮するときが来た。


 また2人ずつ走ることになったのだけど、今度はもう一人を抜いてそこそこの記録を出したのだった。


 やっぱり、江住さん、福田さん、加留部さんの三人が見守ってくれていたけど、そこそこカッコいいところは見せられたのかもしれない。加留部さんがサムズアップしているのも見えた。ありがとう、コーチ。

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