第25話:カンニング

 この日、僕たちの世界の外である事件が起きた。


 定期テストが終わった日の帰りのホームルームに一人のクラスメイトの市川が職員室に呼ばれた。そして、翌日から学校に来なかった。


 担任からは無期停学だと聞いた。カンニングらしい。



「聞いたか? 市川って最低でも3教科でカンニングしてたらしい」



 藤本くんが教えてくれた。



「マジか。そりゃ、無期停学だな」



 この日は、僕と藤本くん、福田さん、そして江住さんの4人で話していた。この4人は席も近いのでよく話すようになって行った。


 僕もこれまでカンニングペーパーを作ったことはあったけど、実際に使ったことはなかった。意気地がなかったというか、怖かったのだ。


 もし見つかってしまったら、その定期テストの全ての点が0点にされてしまうらしい。2度目やれば退学になるらしい。それだけのリスクを負ってまでカンニングしたかったのか……


 カンニングをした市川ってやつをほとんど知らないけど、普通のヤツに見えていた。特別悪い事をするようなヤツじゃなかった。なんとなく僕は心の奥にこの事が残っていた。



 *



「江住さん、今度の週末 僕んちに来ない?」


「え?」



 昼休み一緒に昼食と食べながら江住さんに訊いてみた。少女マンガは見つからない様に1日1冊ずつ渡してたので、まとめて読みたくないかな、と。


 その点、僕の家に来れば一気に読める。それどころか、他の本だって読めるのだから効率的だと思ったのだ。



「どう?」


「う、うん……そうだね……行っちゃおうかな……」



 江住さんがメチャクチャ真っ赤なんだけど……あっ!



「ちがっ! そういう変な意味じゃなくて! ほら、マンガ! マンガを!」


「え? あ、マンガ、マンガね」



 実は、この頃には僕はもう一段ダメな方に進んでいた。江住さんの取説に更に1文を書き足していた。



 ―――

 宇留戸うるとひとしのことが大好き。

 ―――



 彼女は確実に僕のことが好きになっていた。だから、僕が誘えば、彼女は断らない。彼女は断れない。ただ好きじゃない。「大好き」なのだ。



「土曜日でどう? テストも終わったしさ」


「うん……お菓子とか持って行った方がいいのかな?」


「お菓子? いやいやいや、手ぶらで全然大丈夫だよ」


「でも……親御さんがいらしゃるんでしょ?」



 親……確かに土曜日なら、父さんも母さんもいるだろうし、恵美めぐみもいるだろう。


 気軽に呼んでしまったけど、できれば親や恵美には会わせたくないな。こっそり部屋に招き入れるか……そんなことを考えてしまったけど、そんなことは実現する訳ないし、第一 悪い事をしている訳じゃない。


 ちゃんと呼べばいいんだ。



「親もいるし、妹もいるけど、堂々と来て欲しいんだ。江住さんだったら全然大丈夫だから」


「そんな私なんて全然だよぉ」



 こんな感じで、江住さんはうちに来ることになった。ただ、カンニングで停学になった市川のことが頭のどこかから離れないでいた。

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