第26話:江住さんが僕の家に来た
「まぁー! こんな可愛い娘さんがいらっしゃるなんて!」
母さんが玄関先で江住さんを見て開口一番そう言った。
「に、兄さん、なんて言って騙して連れて来たんですか!? これはどう見たっておかしいです!」
「あ、あのっ、
江住さんが玄関先で90度のお辞儀をした。
「(噛んだ)」
「(噛んだ)」
「(噛んだわね)」
多分、母さんと恵美と僕は同じことを考えていただろう。
「これっ! つまらないものですが!」
続けて、江住さんは紙袋を母さんに手渡した。
「まあまあ、お気遣いありがとうございます。玄関じゃなんだから上がって、上がって」
母さんが江住さんをリビングに案内した。
母さんに続いて江住さんが歩いて行く。その後ろを僕が歩いていると、更に後ろから恵美が僕のシャツの裾を引っ張った。
「なに?」
「なんですかあれ? 実は『男の娘』とか? あのレベルが兄さんと付き合うとかおかしいです」
「頑張ったんだよ」
「絶対おかしいです! 何か弱みを握って断れないようにしているとか?」
「違うよ!」
そう言い切ったものの、頭の中に「取説」のことが思い浮かんだ。そう、あの取説が無かったら、僕は江住さんに話しかけたりすることもなかっただろうし、付き合うこともなかった。当然、OKしてもらえる事もなかっただろう。
そう考えると、後ろめたい気持ちもなくはなかった。
「ほら、
リビングから母さんの呼ぶ声が聞こえた。たしかに、早く行かないと。
*
リビングでは、にっこにこの母さんがテーブルについている。普段、我が家で見たこともないカップに見たこともない紅茶が出されていた。
江住さんが持ってきてくれたのが、なんか高そうなクッキーの詰め合わせで、缶に入っている高そうなやつだったからだ。
「この缶、可愛い……」
母さんの隣に座っている恵美がメチャクチャ喰いついてる。
「だよね。私も小物入れに使ってて……」
「あ、私も食べたらそうしたい!」
すぐに江住さんは恵美と打ち解けてしまった。
ちなみに、僕と江住さんは横並びに座っている。
「よかった。気に入ってもらえて……」
江住さんは胸をおさえながら息をついた。
「気を使わなくてよかったのに……」
「そうはいかないよ! お母様にお会いするのに、手ぶらって訳には……」
「「お母様‼」」
母さんと恵美がハモった。
「江住さんは、こんなのでよかったらいつでもお嫁に来てね?」
「私もこんなお姉ちゃんができるなら、兄さんは要らない!」
「あ、あの……」
江住さんが真っ赤になって下を向いてしまった。それに対して、僕の評価はすごく低くないか!? 僕ももう少しチヤホヤされたいんだけど……
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