第23話:彼女には秘密の関係


「宇留戸くん、用事ってなに? 早速、浮気かな?」



 僕はこの日、江住さんに内緒で加留部さんに声をかけていた。そして、昼休みに人がほとんどいない中庭で向かい合っていた。


 昼食は食べ終わり、残りの時間 江住さんと過ごしたいところだけど、事前に呼びだしていた加留部さんと合流していた。


 加留部さんが揶揄っているのは僕にも分かる。



「加留部さんに頼みたいことがあるんだ」


「な、なに? 真剣な顔して……」



 真剣過ぎたようだ。ちょっと加留部さんが引いている。



「僕に短距離を教えて欲しいんだ!」


「どうしたの? 急に」


「午前中 見たと思うんだけど、僕は走るのが遅い。速くなりたいんだ!」


「そう……なんだ。なんで?」


「今日見てたろ? 僕がカッコ悪いと江住さんの株が下がる。それは申し訳なくて……」


「いいとこ見せたい……じゃないの?」


「それもある。でも、元々パッとしない僕と付き合ってくれたんだから、そこそこの男になりたいんだ」


「いい……んじゃないの? それで恋愛れあちゃんに秘密で練習?」


「あまりカッコ悪いところは見せたくない」


「いいね。宇留戸くん。分かった。協力する!」



 僕は協力者を得た。


 来週にはもう一度短距離走のタイム測定がある。その時にそこそこの結果を出したい。それに加えて加留部さんと浮気していると疑われるようなことがあってはいけない。


 昼休みに習って、放課後図書室で江住さんと一緒に勉強して、家に帰ってから単独で練習する。これが僕のプランだ。


 僕はガッツポーズで天を仰いだ。



「ねぇ、宇留戸くん」


「なに? なんで私? 脚の速い人なんていくらでもいると思うし、教えるのが上手な人なんていくらでもいそうだけど……」


「それは……この間、加留部さんが走ってるのを見て、楽しそうで……きれいだったから……」


「そ、そ、そう? 私 走る時 笑ってるみたいで……本気なのよ? でも、そんな風に言われたの初めて……」



 なぜか、加留部さんが照れ照れだ。 あれだけきれいに走れて、カッコいいのだから照れる必要なさそうなのに。やっぱり女の子はよく分からない。


 昼休みの短い時間なので、体操服に着替えたりできないし、制服のまま練習することになるのだけど、走り方とか見てもらいつつ、アドバイスをもらうこととしよう。


 教室に戻ったら、江住さんがいた。



「どこ行ってたの?」


「ん、ちょっとね。来週には分かるから、ちょっとの間 秘密ー」


「わ、なんだろ。気になるー」


「へへへ」


「ふふふ」



 なんとかゴマませたらしい。


 少し離れた席から、加留部さんがニマニマした視線でこちらを見ていた。気づかれちゃうからやめて欲しい。



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