第22話:剥がれたメッキ

 この日の午前中の授業は体育だった。通常、体育は男女別で行われる。その分、2クラス合同で授業を受けるので1組と2組の男子、同様に1組と2組の女子という風に分かれての授業だった。


 ただ、この日は天気も良く、グラウンドで短距離走のタイム測定という内容だった。


 自分が走る時以外は座っていれば楽な授業と言えるが、僕は走るのが遅かった。2人ずつ走って、3回タイムを計り、一番いい記録が成績となる。


 僕は言わずと知れた文科系。飛んだり跳ねたりするのは得意じゃない。当然、走るのも速くない。


 それが江住さんにバレるのが恥ずかしかった。僕の取説を使ったチートのメッキがはがれた瞬間だった。


 それでも無常に授業は進み、僕は一緒に走るやつに大きく遅れてゴールしていた。この日は、女子も短距離走のタイム測定だったらしく、少し離れたところから応援されている人もいた。


 実際、僕が走る時に江住さんはこちらを向いていたし、その両脇に加留部さんと福田さんもい居た。三人で手を振ってくれていたので、僕はメチャクチャ居心地が悪かった。



「宇留戸、お前意外にモテるのな」



 そう声をかけてきたのは僕の席の前に座っている藤本くん。



「いや、まあ、たまたま……」


「たまたまで あの三人から手を振ってもらえないだろ」


「まぁ、たしかに」


「お前、面白いな。普段『話しかけるなオーラ』が凄すぎて話したことなかったけど、よろしくな」


「あ、うん。つるむのがあんまり得意じゃなかったみたいで……」


「そうなん? 普通だけどな。それよりさ、宇留戸ってあの江住さんと付き合ってるってホント⁉」



 藤本くんが肩を組んで聞いてきた。距離の詰め方がすごい。リア充のそれ。


 ん? いま僕ってなにげに友達ができた?



「藤本くん」


「どうした?」


「僕たち友だちかな?」


「え? あぁ、そうだと思うけど」


「そうか、友だちか。よろしく」



思わず、藤本くんの手をガッシリ握ってしまう。



「はは、お前ホントに面白いな」


「あ、いや。あと、江住さんとは付き合い始めたんだ。まだ付き合い始めだからそっとしててね」


「そうなのか。教室ではこの間の朝のやり取りを聞いて話題になってたんだよ」


「そうなんだ……」



 友だちができて嬉しいところだけど、僕は情けない思いもしていた。足の遅さは昨日今日始まった訳じゃなかったから。



「ねぇ、藤本くん、速く走るにはどうしたらいいのかな?」


「速く? 一生懸命走ればいいんじゃね?」



 それは、速く走れるヤツの考えだ。僕には適用されない。



「あとは……速いヤツに習う……とか?」


「速いヤツに……習う!?」



 僕にない発想だった。「友達に頼る」それは友達がいない人間には思いつかない方法だ。



「ありがとう! 藤本くん!」


「なんだよ、お前ホントに面白いヤツだな」



 僕は足が遅いという恥ずかしいところを江住さんに見られたことと引き換えに友達と、あるアイデアを得たのだった。

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