第21話:図書室でのトラブル
静かな図書室に金髪の女子が入って来た時には嫌な予感がしたんだ。
「ねぇ、ここにマンガ置いてるんでしょ? ワンピース全巻一気読みしたいんだけど」
「あ、すいません。図書室にはマンガは置いてないんです」
福田さんが丁寧に対応している。
「はぁー⁉ あそこのあれとかマンガじゃない!」
「あれは、ラノベで……」
「ラノベー? 何言ってるのか分からない!」
「ラノベ」は割とメジャーな呼び方だと思うけどな。人種が違うからライトノベル自体を知らなかったのかもしれない。
「なぁ、樹里ー。あったぁー?」
金髪女のあとから、胸のボタンを2つも3つもあけているガラの悪そうな金髪男子生徒が入ってきた。
「こいつが訳の分からないことを言って貸してくれないのーっ!」
「なんだと!? 俺が何とかしてやるからなぁー」
男は金髪女に優しく言うと、カウンターの福田さんの前に立ち、ぐいーーーっと乗り出した。
「樹里が本借りたいって言ってるんだから出せよ!」
完全に行き違いだ。福田さんは別に悪くない。しかも、ちゃんと説明した。伝わっていないのを補足したくても、あの威圧的な態度では難しい。
「あのっ……図書室に……マンガは……なくて……」
「ああーん⁉ なんだと!?」
とても見ていられない。横で江住さんも不安そうにしている。助けに入りたいのは山々だけど、金髪男に勝てるとは思えない。腕の太さなんか僕の1.5倍はありそうだ。
僕は静かに図書室を出た。
図書室の外で2回ほど深呼吸をしてから、わざと大きな音を立てて図書室のドアを開けた。
バターン!
「先生! こっちです! 図書室でトラブルなんです! 早く!」
僕は図書室の外を見ながら手招きする仕草。
慌てる金髪男と金髪女。
「じゃ、じゃ、じゃあな!」
金髪男女はドンと僕にぶつかって図書室を去って行った。僕は図書室のドアに顔をぶつけ、すごくカッコ悪い感じだった。
それでも一大決心で動いたんだ。両掌を見たら小さく震えていた。これが「手が笑っている」という状態だろうか。
いちいちカッコ悪い。内心自分に失望してため息が出た。
「ありがとー! 助かったよー!」
福田さんが近寄ってきて僕の袖を摘まむ。
「いや、全然。カッコよくなかったし……」
「んーん! んーん! カッコよかった! 助かった! ありがとー!」
江住さんも近づいてきた。全然カッコよくなくて苦笑いの僕に、羨望の眼差しでキラキラした瞳を向けてくれた。
こんな時にスマートに助けられる男でなくて すまん!
「
「うん、助かった、ありがとう! 宇留戸くんいいね!」
「ありがと……」
なんか江住さんが照れてる。そうか、僕が江住さんの彼氏だからか。少なくとも何もせずにスルーしていたら、江住さんの株を下げるところだった。
その後、残された僕たちは図書館中から何故か温かい眼差しで見守られ、ちょっとした小さな一体感に包まれるのだった。
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