第20話:放課後図書室デート
この日、僕は初めて江住さんと「おはよう」と「じゃあね」以外の言葉を教室で交わした。
放課後にはいつもの「じゃあね」じゃなく、「図書室行こうか」を投げかけた。江住さんからは、「うん」という返事が返ってきた。
図書室での目的は2つあった。
1つ目は、少女マンガの次の巻を渡すということ。
そして、2つ目の目的として「勉強」があった。たしかに、もうすぐ定期考査があるというのも理由はあるけれど、一番の理由は「江住恋愛取扱説明書」に一緒に図書室デートしたいというのが希望としてかいてあったのだ。
それを実現させて、点数を稼いでおきたいというのが目的だ。
わが校の図書室は、そんなに広くない。ただし、最近の流行りなのかラノベも置いてある。まあ、定番のやつしか置いてないので既に持っているからワザワザ借りようとは思わないけど。
テストが近いからか、図書室を利用する生徒は割と多い。しかし、一応 席は確保できた。この場合、向かい合わせをイメージしていたのだけど、あまり席が空いていなかった関係で横並びになった。
「意外と人がいっぱいいたね」
「ホントだね」
たくさんの生徒の前で横並びだと「僕たち付き合ってます!」と公言しているようで少し恥ずかしかった。何も言わないけど、江住さんも顔が赤い。もしかして、僕と同じことを考えているのかもしれない。
1つ目の目的である少女マンガは円滑に渡すことができた。
そして、元々面白みのない僕としては普通に勉強を始めた。江住さんもそれに習って勉強を始めていた。
最初は横並びで座っているだけでドキドキで心臓の音が隣の江住さんにまで聞こえてしまうんじゃないかと思っていた。ちらりと横を見ると真剣に勉強している江住さんの横顔を見てしまうと、自分はなんて浅はかなんだと思った。
僕の集中はすぐに切れて、周囲を見渡した。
すると、貸出カウンターの席に福田さんが座っていることに気づいた。いまさら過ぎた。彼女は何かしらの委員をやっているとは知っていたけど、よりによって図書員だったらしい。
テスト勉強の期間であっても貸し出しや返却の手続きがあるらしい。カウンターに座っているものの のんびりしている時間はないらしい。
貸し出しや返却の手続き以外にも問い合わせに対する対応とか、返却された本を本棚に戻しに行ったり割と忙しいみたいだ。図書委員も福田さんだけではないのだけど、カウンターを空けてしまうとそれはそれでダメらしく、福田さんともう一人のどちらかが必ずカウンターに座っていた。
僕は今まで委員会に入ったこともなかったし、誰かのために働いたこともなかった。バイトと違って働いたからと言って何かしらの報酬がもらえる訳じゃない。こんな献身的な気持ちだけであんなに真剣に働く福田さんに尊敬の気持ちが芽生えてきた。
あまりにガン見していたからか、ここに来てカウンターにいる福田さんがこちらに気づいたみたいで目が合ってしまった。
福田さんはいたずらだと思うけど、ウインクしてきた。僕は苦笑いするしかリアクションできなかった。
そして、事件はこの後起きた。
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