第19話:学校生活の変化

 今日も早く登校した。勢い余って江住さんよりも先に教室に着いた。教室にはまだ数人しかいない。


 どうやら僕には「ちょうどいい」というアナログの調節がついていないみたいだ。デジタル調節だから、ゼロかイチしかないらしい。


 一応、少女マンガの新しいのも持ってきている。万全の体制と言える。僕は、自分の席についてそわそわしていた。


 スマホを取り出して、メッセージがきていないのを確認して鞄に戻す。右を見て、左を見て、前を見る。入り口のドアの方をしばらく眺めてまた前を向く。


 明らかに手持ち無沙汰だ。不審者と言い換えてもいい。でも、僕はこんなだ。



 ガラガラ……ドアが開いて、そこにいたのは江住さん。自然と僕に笑みが溢れる。肝心な江住さんも僕と目が合うと笑顔をくれた。



「おはよ、宇留戸くん」


「おはよ、江住さん」



 初めてじゃないだろうか、学校でちゃんと挨拶できたのは。僕はこんな可愛い子と付き合っているんだ。それだけで背中に汗をかきそうだ。


 江住さんが席につき椅子ごとこちらを向いた。僕は横にスライドして江住さんに椅子ごと近づいた。



「今日も1冊持って来たから」


「ホント?ありがと」


「放課後はさ、ファミレスもいいけど図書室行かない?」


「図書室?うん、いいけど。なんで?」


「もうすぐテストってのもあるし、毎日ファミレスだとお互いお小遣いなくなるかなって思って」


「ふふふ、そうだね。たしかに」


「図書室にはパフェとドリンクバーはないけど」


「あ、パフェは毎日じゃなかったでしょー⁉ 宇留戸くんは私が食いしん坊だと思ってるよね!」


「全然思ってないよー」


「なぜ、語尾が伸びてるの⁉」


「ははははは」



 朝から会話が成立していたし、いい具合に盛り上がっている。



「おはよ。恋愛ちゃん、宇留戸くん」



 いつの間にか福田さんが登校していた。



「おはよ、しょうちゃん」


「おはよう、福田さん」


「おはよう。珍しいね、二人が盛り上がってるのって」


「うん、まぁね」



 江住さんが少し照れている。僕もここで逃げたらダメだ。



「おやぁ? なんかお二人イイ感じぃ?」


「えへへ、実は……」



 *



「はー!? 付き合い始めたーーー!?」



 福田さんの大きな声で周囲がザワザワし始めた。いきなりバレたし、いきなり周囲に知られたし、多分今日の放課後にはクラス中の人が知っているんだろうなぁ。



「私の玲愛ちゃんだからね!」



 福田さんがふざけて座ったままの江住さんを抱きしめる。



「その……女の子同士の友情も大事だと思うし、空いてるときに会えれば僕は十分嬉しいので……」


「あ、消極的ー、そんな事じゃぁ、私から玲愛ちゃんを奪うことなどできないわよ!」



 福田さんと騒いでいると、加留部さんも登校してきたみたいで、福田さんと共に左右から江住さんに抱き着いている。



「玲愛ちゃんは私のもの!」


「いや、私のもの!」


「なんだこれ。僕は何を見せられているんだ……」


「「「ははははは」」」



 ほんと仲が良いな、この三人。僕と江住さんが付き合うことになったと分かっても、変な顔しなかったし、揶揄ったりもしなかった。


 やっぱり、本当のリア充は相手に対してマウント取ったりしなくていいから、心に余裕があるというか、優しく接してくれるというか、いい人だな……


 その後、江住さんが二人から「おめでとう」とか「どこが良かったの?」とか「どっちが告白したの?」とか質問攻めにあっていたけど、僕にできることは何もなかった。


 少し離れて静観していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る