第15話:取説のもう一つの使い方

 僕は順調に江住さんとの密会を重ね、仲良くなっていった。そして、ついに週末にデートに誘ってしまった。


 ファミレスで直接誘うという、清水寺から飛び降りるどころか、スカイツリーから飛び降りるくらいの勢いで思い切って誘ってみたら、恥ずかしがりながらもOKしてもらえたのだ。


 そして、僕は万全の態勢でそのデートに臨むことにした。


 まずは、服装。


 いざ、デートに着て行く服と選んでみたら、どれもイマイチだった。僕はまたあの救世主に頼ることにした。



 トントン


「はーい」


 ガチャ


「あ、兄さん」


恵美めぐみ! いや、恵美さま! 今度の日曜日のデートに着て行く服を一緒に選んでください!」



 もうね、恥も外聞もなかった。両手を合わせて頭を下げて妹に頼み込んだ。



「ふー、しょうがないですね。兄さんの私服のセンスは終わってますからね……一緒に歩く女の子の事を考えたら、せめて普通の服を選んであげたい気がします」


「い、いいのか!?」


「私、安くないですよ?」


「前回のスカートを買ってやる件がまだだったから、上も一緒にお買い上げ申し上げるけどそれでどうだ!」


「んー……兄さんの財布事情も分かるから、その辺りで手を打ってあげます」


「ありがとう!」



 こうして、デート前日に滑り込みでデート服を手に入れる算段を付けたのだった。自分の服と合わせたら、諭吉がいなくなるだろうけど、それも辞さない覚悟だ。


 それくらい僕は今回のデートにかけていた。できることは全部やってから望むことにした。


 行先は遊園地。道も調べた。電車の経路も調べた。運賃だって調べた。お昼ご飯が食べられるところから、いくらくらい必要かまでで調べた。


 用心には用心を重ねた上で僕はアレを思い出した。


 僕にはこれがあった。



江住えすみ恋愛れあの取扱説明書」



 この取説に書かれたことは全て本当だった。


 ここに書かれていることを参考にして彼女と話したら仲良くなれた。そして、デートにまでこぎつけた。


 ただ、彼女もデートは未経験らしく、具体的なデートプランについて希望が書かれていなかったのだ。



「なぜ、ないんだ……」



 僕は自室の机で頭を抱えていた。「最初のデートは遊園地がいい」とか「デートすることで宇留戸くんのことが好きになる」とか書かれていれば!



 ……書かれていないことを書き加えたらどうなるんだ!?



 ふと僕は、思いついた。


 この取説、全てのページが印刷されたように活字だ。でも、余白はある。そこに僕が僕の希望を書いたらどうなるんだ!?


 そう思いついたとき、既に僕は手にボールペンを持っていた。そして、デートのことについて余白に書いていくのだった。

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