第16話:デートの待ち合わせ

 僕は、日曜日の朝 駅にいた。江住さんとの待ち合わせだ。約束の時間より30分も早く到着したのに、江住さんは既にそこで待っていた。


 白いブラウス、赤く細いリボン、薄緑のフワフワしたスカート。黒髪で背中くらいまでのストレートのロングヘア。アニメや漫画の清楚系ヒロインがそこに具現化していた。


 そして、僕の顔を見ると笑顔になって駆け寄ってきてくれたのだ。それだけで僕は何度目か心を射抜かれたような気分になった。



「お、おはよう。江住さん。すごく可愛い服だね」


「ホント? ありがと♪ いっぱい悩んだけど、褒めてもらえてよかった」



 なに、その感想。僕はもう、ここで死んでもいいとちょっと思ってしまった程だ。


 ちなみに、僕はVネックの白い麻のシャツにグレーシャツ。それに、黒スキニーパンツを合わせた。



「宇留戸くんもカッコいいよ! 私服初めて見たけど、センスいいんだね!」


「そ、そう? ありがと」



 待ち合わせイベントとしては上出来だ。


 僕は、取説にこう書いたのだから。



 ―――

 デートの待ち合わせの時に、お互いの服を褒め合う。

 ―――



 僕としては、予想できた内容ではあった。でも、実際に江住さんに服を誉めてもらうとすごく嬉しかった。恵美めぐみへのお礼も無駄じゃなかったと思えた。



「じゃあ、行こうか」


「うん!」



 ああ、満面の笑顔の返事。江住さんめちゃくちゃ可愛い。少し頬が赤くて、僕の顔を見てくれて、こっちが照れてしまう程だ。そう、僕は決定的なことも取説に書いていた。



 ―――

 江住えすみ恋愛れあは、宇留戸うるとひとしのことが大好き。

 ―――



 やってしまった。


 この取説が本物だとしたら、そして、手書きの追記が有効だとしたら、彼女はきっと僕のことが好きになっている。


 学校では見たこともない笑顔。表情、視線、いつもと違う江住さんに僕の心臓はいつも以上にドキドキを強めていた。


 日曜日の朝の電車は乗客も少なく、席は特急電車のように2人がけずつ向かい合わせだったので、彼女と向かい合わせに座った。


 時々膝が当たりお互いテレたけれど、席を動くことはなかった。


 移動中、共通の話題である少女マンガのこと、アニメのこと、ラノベのこと、お互いの秘密の趣味について語り合った。江住さんはこの手の話は話せる相手がいなかったらしく、すごく喜んでいた。


 僕も恵美に色々と少女マンガを借りまくって、段々その面白さにのめり込んで行っていた。むしろ、少年漫画は「ドカッ」とか「ドギャーン」とか擬音が多いのに対して、少女マンガはキャラクターの心の動きが描かれていることが多くて、これはこれで好きだった。



「ねえ、宇留戸くんは、今日行く遊園地とこ行ったことある?」


「うーん、小学生の時に親に連れて行ってもらったんだけど、あんまり覚えてなくて……」


「そうなんだ。私もすっごく久しぶりだし、すっごく楽しみ♪」


「そか、じゃあ、何から乗る? ジェットコースター得意な方?」



 話は盛り上がった。ふと、僕は学校でもこんな風に江住さんと話せたらいいのに、と思ったのだった。

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