第14話:彼女と密会

 ファミレス入り口に江住さんが来た! テーブル横に店員さんが来て端末を構えているのにそれどころじゃない。


 僕は半分立ったような姿勢で右手を上げて、自分の居場所をアピールした。


 それに気づいた江住さんはさっきまで不安そうにきょろきょろしていたのに、笑顔になってこっちに向かって歩いてきた。


 ここに来て店員さんのことを思い出した。



「あ、すいません。連れがきたのでもう一度呼びます」


「かしこまりました」



 嫌な顔一つせず、店員さんがフェイドアウトした。



「お待たせ」


「全然」



 そう言って僕の真向かいに座った。夢みたいだった。あの江住さんと一緒にファミレスにいるなんて。僕は完全に舞あがっていた。



「こっ、これ! メニュー」


「あ、ありがと。宇留戸くんは何にしたの?」


「あ、僕もこれから注文だけど、とりあえず、ドリンクバーで」


「そか……」



 江住さんは、ちょっと残念そうだった。そうか、そうだった!


 僕は、事前に予習していた。江住さんは甘いものが好きなんだ。スイーツを頼む口実を欲している!



「あ、でも、ケーキとかと一緒だとドリンクバーがセット価格になるみたいだよ? お得みたい」


「ホント?」


「うん、僕も何か注文しようかな?」


「じゃあ、バナナサンデーかなぁ、あ、ベリー&ベリーパフェおいしそう」



 女の子が甘いものを選ぶのってなんかいいな。無限に見ていられる。



「あ、ごめん! すぐ決めなくちゃだよね!?」


「いや、ゆっくり決めてよ。僕は僕で楽しんでるから」


「? うん、ありがと」



 僕は、プリン&ブラウニーという平皿に載ったスイーツにドリンクバーを付けることに決めた。多分、男と来たら山盛りポテトを頼んでいたと思うけど、今はそれじゃない気がした。


 江住さんは、ベリー&ベリーパフェとドリンクバーに決めたらしい。


 再度、呼び出しチャイムで呼びだし、注文した。ここまでは滞りなく進んだ。ドリンクバーをどちらが先に次に行くかの譲り合いみたいなのはあったけど、あまりごたごたするのも何だから、僕が先に行って、カフェモカを注いできた。その後、江住さんは紅茶を注いできた。



「へへ、実は私、初めてなんだ。友達とファミレス来るの」


「そうなんだ。僕も。なんかちょっとそわそわするよね」


「そう! そわそわするね」



 注文したものが来るまで ちょっと変な間ができた。



「あ、そうだ! これ」



 そう言って、僕は鞄からマンガの本を取り出し、テーブルに置いた。



「あ、1巻ありがと。面白かった」


「そう? よかった」


「さすが名作だよね。今読んでも全然古くない感じ」


「分かる!」


「……」


「……」



 会話が途切れてしまったので、お互い飲み物をすすった。



「ごめんね。私、男子とこんな風に二人っきりになったことなくて……」


「それを言うなら、僕なんかクラスメイトと二人っきりすらないよ」


「あはは、なにそれ」


「僕って、なんかクラスのヤツらと話しにくくて」


「そうなんだ。でも、こうして話してみたら別に普通だけど……」


「ありがとう」



 なんか「普通」って嬉しい。


 それから1時間くらい他愛もない会話をして僕たちはファミレスを出た。なんか感動の時間というか、夢のような時間だった。ほんと、帰るのがもったいないくらいの。


 初回の「デート」が上手くいったことから、僕たちは2度目、3度目のデートを重ねていった。


 そして、ついに、僕は週末のデートに誘うことにしたのだった。

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