第13話:二人の秘密
翌日、結果から言えば完璧だった。期待以上に思った通りに事が進んだ。教室内では、相変わらず江住さんと僕は挨拶以外は言葉を交わさなかった。
だけど、アイコンタクトとスマホでのメッセージというコミュニケーション方法を得ていた。僕たちは机は隣同士なのにそれぞれ前を向いてスマホを取り出した。
『昨日、1巻もう読んじゃった。面白かった!』
『今日、2巻持ってきてるよ』
『ホント⁉ じゃあ、また放課後に!』
『ファミレスで渡すね』
『うん、楽しみ♪』
その後、パンダがお辞儀したスタンプが押された。
「れーあちゃん!おはよ!」
「おはよ、
福田さんが登校してきたみたいだ。
「誰に送ってるの? 彼氏できた!?」
「ぶっ!」
「ちょっと、宇留戸くん大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫。ありがと」
福田さんが江住さんに話しかけたのに、僕が反応してしまった。こっそり江住さんを盗み見たら真っ赤になってる。これは、脈がない訳じゃないかもしれない!
*
教室を出る時はいつもの様に挨拶をした。
「じゃあ」
「またね」
でも、いつもと違うのは、僕と江住さんはアイコンタクトで「後でファミレスで会おう」と伝えあっていた。
こういうの、なんだか秘密の共有みたいで嬉しいし、楽しいな。
僕は何食わぬ顔で教室を出て、駅に向かった。途中色々なことを考えた。
―江住さんが来てくれなかったら
―本当は嫌だけど、マンガを借りたいから来ているとしたら
―江住さんだけじゃなくて、他の人も来てしまったら
人間不安に思ったら、次々悪い事は思い浮かぶ。僕はファミレスに着くまでに10ペタフロップスの演算速度で色々なことを考え続けた。
そういえば、子供だけでファミレスに入るのは初めてだ。店員さんに気づかれていないかドキドキしているのは秘密だ。
「しゃっせー。空いている席にどうぞー」
バイトの人かな。緩い挨拶のお陰で、こっちも少し気持ちが和らいだ。
後から江住さんが来ることを考えると、入り口が見える場所で、見える位置に座る必要がある。
それでいて、万が一、同じクラスのやつが入って来た時にすぐに気づいて隠れられる席……そんな都合のいい席はないので、適当な位置で入り口が見える席を選んだ。
ファミレス自体は家族ときたことがあるから知っている。最近のファミレスは、呼ばないと店員さんが来ないので注文は江住さんが来てからが良いのか、それとも、すぐに注文しておいた方がいいのか悩んだ。
一応、メニューをもって選んでいる振りはしているけど、注文するものはドリンクバーと決まっている。先に頼むか!? それとも待つべきか!? いや、何も頼まずに10分、20分待っているとお店からしたら変な客ってことになってしまうだろう。
僕は、注文することに決め、呼び出しボタンを押した。
ピンポーン
店内に僕が押した分と思われる呼び出し音が鳴り響いた。それと同時くらいに、店の入り口できょろきょろと周囲を見渡す江住さんの姿が見えた。
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