第12話:仕掛けは上々?

 僕は自分の部屋で机の上にスマホを置き待っていた。



 *



 江住さんに教室で渡した少女マンガは、よくある紙のブックカバーを付けていたので、一見それだけでは少女マンガに見えない。


 帰りのホームルームが終わった後、僕はできるだけ自然な感じでソレをカバンから取り出し、「これ、例の物」なんて言って隣の席の江住さんに渡した。


 江住さんは一瞬慌てた様子だったけど、左右をきょろきょろと確認しながら、自分の鞄に「ブツ」を仕舞った。そして、笑顔で「ありがと」って小さな声で言ったのを聞き逃さなかった。



 *



 そして、僕が待っているのは……



『マンガありがと。今度、ファミレス行きましょう』



 そのメッセージと共に猫がお礼を言っているスタンプが僕のスマホに投下された。



「きたーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!」



 仕掛けはこうだ。


 僕は、マンガの中央程にしおりのように1枚のメモを忍ばせておいた。



『教室ではあまり話せないので、よかったらお友達登録お願いします。今度、マックかファミレスで少女マンガの話しませんか!』



 口下手の僕が最大限アピールするには、書いて見せる方法しかないのだ。そして、江住さんが好ましいと思っている「手紙」を使った。そして、江住さんが憧れている(?)放課後のおしゃべりをエサにぶら下げてみたのだ。



「YES! YES! YES!」



 僕は、全力ガッツポーズで部屋の中を5周くらい回った。


 トントン、とドアがノックされた。何だろうと思い、ドアを開けると、そこには半眼ジト見の恵美が立っていた。



「兄さん、ちょっとキモイんですけど」



 とりあえず、ここまで これだけ上手くいったのは、恵美の功績も大きい。僕は思わず、恵美を抱きしめて「ありがとう!」を連呼した。


 恵美が顔を真っ赤にして挙動不審になっている事なんて、まるで僕の目には入っていなかった。



「恵美! 2巻からも貸してくれよな!」


「分かりました! 分かりましたから、離れて!」



 そう言われて、僕は我に返った。


 いかんいかん。年頃の妹を抱きしめたら通報されてしまう。(誰に?)


 そして、我に返った僕は、急いで江住さんへの返事を考えるのだった。



「よかったら、明日は帰りがけにファミレスでマンガを渡すのはどうかな? 話もできるし一石二鳥だから」


「うん、いいよ。どこのファミレスにする?」


「駅前のガストウはどうかな?」


「了解」



 その後に、「了解しました」と敬礼した猫のスタンプが投下された。

 これはすごいことになった。放課後に江住さんとファミレスデートだ! 僕は明日は何を着て行こうかと部屋の中をグルグルと5周くらい回った。そこで気づいた。放課後だから制服に決まっている。


 どうやら、僕は思っている以上に混乱しているようだった。恵美にはマンガの2巻を借りたし、万全の態勢で学校に行くことになる。

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