第11話:妹との密約 彼女との秘密
「兄さん、その顔すごく気持ち悪いんですけど」
僕は、家に帰ると
「そーおー?」
「はぁ……まったく、すごい顔してますよ?……それで、私のマンガを貸し出したいってことですね?」
「そう! そうなんだよ! お願いできる!?」
僕は、それをOKしてもらわないことには大変なことになることを思いだし、前のめりで恵美にお願いした。
「いいですけど、高いですよ?」
「コンビニスイーツでは?」
「兄さん、私をそんな安い女だと思っているんですか?」
それはいいけど、こういう時に使うセリフなのか? それ。
「じゃあ、何をご所望で?」
「夏用の服が欲しいんですけど?」
「その服というのは3,000円で収まりますか?」
「いいでしょう。善処します。ただし、選ぶときには同行してもらいます。財布として」
「分かりました。お付き合いしましょう!」
こうして、妹との密約を交わし、江住さんに貸す少女マンガを確保したのだった。
*
僕が、普通に漫画を貸すと思う? 思わないよね。なぜなら、僕には、「
取説のうち、「好きなシチュエーション」の項目を見た。
―――
好きなシチュエーション
異性から誘われるときは手紙が好ましい。
―――
また、「好きなこと」の項目に以下のような物があった。
―――
好きなこと
放課後、ファストフードやファミレスで友達と勉強やおしゃべりをしてみたい。
―――
「手紙」は、ラブレターのことかもしれないけど、そこまでの度胸はない。しかも、昨日今日仲良くなった僕から突然ラブレターをもらったら、それは引いてしまうのではないだろうか。
僕の思いだけ先走りしてはいけない。
「好きなこと」のほうは「してみたい」となっている。「が好き」ではなく、「してみたい」だ。つまり、経験がないということ。
そこで、僕はラブレターの代わりに少女マンガに忍ばせる物を準備することにした。
***
翌日、僕はホームルーム開始より30分早く着くように登校した。すっかりこの時間に慣れてきた気がする。
「おはよう、宇留戸くん」
「おはよ、江住さん」
今朝はちゃんと挨拶ができた。昨日、少しでも話して帰ったのがよかったのかもしれない。そして、僕と彼女は共通の秘密を持ったことが僕の心を後押ししてくれている。
加留部さんと福田さんはまだ登校していないみたいだ。
江住さんがこちらを向いて、口元に指を添えて声のない口だけで「持ってきてくれた?」と聞いた。
その時の笑顔はまさに殺人的で、僕は本当にこの子が好きなんだなぁと実感させられた。
僕は、親指を上げてサムズアップしたら、江住さんは小さく拍手していた。
「放課後にね」
僕は声に出して言った。マンガの本は学校にに持ってきて見つかったら没収されるご禁制の品。江住さんに貸して、その間に持ち物検査なんてあったら申し訳ないことになってしまう。
僕は、マンガの本をカバンの一番奥に隠して放課後を待った。結局、学校にいる時は僕と江住さんは「おはよう」と「じゃあね」しか言葉を交わすチャンスがない。別に誰から禁じられている訳じゃないけど、空気がそうさせていた。
放課後、無事マンガの本を渡し、僕は一人家に帰った。
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