第10話:当たって砕けろ!

 教室に戻ると教室内には、数人しか生徒は残っていなかった。江住さんはちょうど帰り支度をしていた。さっきまで一緒にいた福田さんは委員会に行ってしまった後らしい。



「あ、宇留戸くん。じゃあね」



 江住さんに声をかけられた。いつもの様に笑顔。エンジェルスマイル。



「うん……」



 僕の口からは、挨拶というよりは返事しか出なかった。


 ……いや、違うだろ! 今しかないんだろ! すごいチャンスだろ!



「あ、あのっ! 江住さん!」



 教室を出ようとしていた江住さんに声をかけた。きょとんとした表情で振り返る江住さん。



「ぼっ、僕も今帰りなんだけど、途中まで一緒に帰らない!?」



 僕は床の模様を見ながら聞いてしまった。本当は彼女の顔を見ながら言うべきだったのだけど、今の僕にはこれが精いっぱいだった。



「……いいよ?」



 少しの間があったけど、江住さんから色のいい返事が返ってきた。僕は思わず顔を上げた。



「宇留戸くんって駅の方向?」



 帰りの方向の話だろう。



「うん、電車通学」


「じゃあ、私と一緒だね」


「……」



 うまい返しはできなかったけど、江住さんと一緒に帰ることになった。多分、僕の人生のピークともいえる大チャンス到来中!


 駅までの道、江住さんと横に並んで歩いている。全ての通行人がこっちを見ているような気がして、僕としては気が気じゃない。ガチガチで話せなくなっていたのを助けてくれたのは、江住さんだった。



「宇留戸くんは、どんな少女マンガが好きなの?」



 こちらを向いた笑顔も素晴らしい。



「XXXXXXとか、XXXXXXとかかな」


「ホント⁉ 私もそれ好き! 大好きなの!」



 そうでしょ、そうでしょ。きみの取説に書かれていたのだから、僕は予習済みだった。そして、その本も最新刊まで読破済みなので、江住さんと話もできた。


 彼女が発した言葉「好き」が僕自身に向けられたものだったらどんなにいいかと夢想してしまった。



「すごいすごい! 好みが一緒って嬉しいね♪」


「うん!」


「あ、じゃあ、他にはどんなの読むの?」



 これも既に予習済みの内容だ。我が妹、恵美めぐみよ大感謝だ! 今度コンビニスイーツでも奢ってやろう。



「最近は、ちょっとレトロな名作を読んでて、『動物のお医者さん』とか『ぼくの地球を守って』とか『花より男子』とか……」


「すごい! その存在は知ってたんだけど。持ってるの?」


「うん、今度貸そうか?」


「ホント! ぜひぜひ!」



 そんな話で盛り上がり、駅までの話を繋ぐことができた。恵美よ、ありがとう! そして、マンガを貸してくれ。


 僕はこの成果をどや顔で妹に報告したのだった。

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