第9話:彼女と秘密を共有
江住さん、福田さん、加留部さん、そして、僕の四人で雑談していたら、ちょっと変な空気になってしまった。
程なくして担任が来てホームルームが始められ、福田さん、加留部さんはそれぞれの席に戻っていった。
何気なく江住さんの方を見ると、机の端にノートをすっと出してきた。そして、そこには次のように書かれていた。
『ホントは私も少女マンガ好きなの。秘密だよ♪』
江住さんの顔ははにかんでいた。なに、その顔。めっちゃ可愛い。すぐ前に福田さんが座っているので、声に出して言うのは
俺も、ノートの端っこに書いて見せた。
『今度どんなのが好きなのか教えて』
江住さんはこちらを見てコクコクと頷いた。僕は、嬉しくなって追加で筆談した。
『僕の好きな少女マンガも教えるから』
江住さんは、嬉しそうにコクコクと頷いた。なんだか、彼女と秘密ができたみたいで嬉しかった。
*
しかし、江住さんと俺が話をするとしたらそれだけで難しい。彼女はクラスのカーストで言えば最上位のヒエラルキー。僕は最下層のそれ。言葉を交わす精神的な障害の他に物理的に接触する瞬間がないという二重の壁があった。
例えば、休み時間は、福田さんと加留部さんが江住さんの席の近くに来るので僕からは話しかけにくかった。
昼休みは、同様に彼女たちが三人でお弁当を食べているので、僕は
*
そして、放課後。加留部さんは部活に行ってしまった。意外と部活少女らしい。福田さんは江住さんと話している。たしか、福田さんは何かしらの委員会に入っていたはず。
いつもなら僕はすぐに家に帰っていただろう。しかし、今日は違う。チャンスなのだ。目には見えないけれど、ビッグウェーブが来ている!
何としても、江住さんと話さないといけないのだ。一旦、トイレに行ったり、廊下を歩いたりした。
意味もなく廊下からグラウンドを眺めた。そこには体育会系の部活の生徒が走り込みしている。これまで僕は放課後はチャイムダッシュしていた。だから放課後にこんな風に生徒が残って運動しているなんて知らなかった。
もちろん、部活は知っていたけど、初めて見たというか、実感したというか……
その走り込みをしている一段の中で加留部さんの姿が見えた。服装から見て、彼女は陸上部らしい。上がTシャツで下はスパッツみたいなやつ? 大会とかのユニフォームとは違うみたいだけど、体操服とは違うみたい。
加留部さんがショートカットなのは、このためだったのかもしれない。すごく楽しそうに走っているのがここからでも見て取れる。
……僕は、これまでクラスメイトに興味をもっていなかったのかもしれない。加留部さんが陸上部だなんて知らなかったし、走るのが好きだという事も知らなかった。そして、走る姿があんなにきれいだなんて。
江住さんはどうだろう……僕が江住さんのことを知っているのは、全て取説からの情報。それをリアルで見たい。知りたい。そう思うのだった。
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