第8話:彼女のコンプレックス

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コンプレックス

少女マンガが好きであることは、少女趣味過ぎると感じていて恥ずかしいと思っている。

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 これだ! 江住さんの取説のうち「コンプレックス」の欄を見るとこの書き込みを見つけた。


 僕は危うく同じ間違いを繰り返すところだった。



「江住さん、少女マンガ好きでしょ?」



 これはダメなのだ。とても絶妙で、微妙で、神妙なアピールが必要そうだ。コミュニケーションスキルが高くない僕にできるだろうか。


 一抹の不安を抱えたまま、僕は学校に臨むことになった。



 ***



 今日も早めに登校した。昨日と違うのは、福田さんがもう登校していた。教室の一番後ろで入り口から一番遠くの席が江住さん。


 その前の席が福田さん。僕の席は、江住さんの隣の席だ。



「宇留戸くん、おはよ」


「おはよ」


「はよ?」


「おはよ、福田さん」



 僕が自分の席に近づくと江住さんがいつもの様に挨拶してくれた。僕はなんとか自然な感じに思えなくはない様な感じの返事を返すと、釣られて福田さんも挨拶してくれた。


 こうなると、僕は会話に入って行けなさそうだ。静かに自分の席について大人しくしていた。ただ、ホームルームまで30分近くある。このまま座り続けるのは軽く拷問だ。どうしよう。


 そうしているうちに、江住さんの仲良し3人グループのもう一人加留部さんが登校してきた。そして、空いていた僕の席の前の席に座った。益々、僕としては江住さんに話しかけにくい状況。


 僕は存在を消して、ただそこにいる置物と化することにした。



「恋愛ちゃん、昨日読んでるって本なんだったの?」



 加留部さんが江住さんに訊いた。もしかしたら、電話かLINEかで昨日のうちに話していた続きかもしれない。



「え? あ、うん、小説」


「へー、どんなのどんなの?」


「えー、普通のだよ」


「ふーん」



 なに、この身の無い会話。これだから、友だちとの会話とか苦手なんだよ。


 いや、これは友達と仲良くなるための「相手のことを知る」ってやつか。いきなり、加留部さんがすごい人に思えてきた。



「え? なに? 宇留戸くんがめっちゃ見てきてるんだけど」


「あ、ごめん。加留部さんのコミュ力に感動してた」


「ぷっ、なにそれ」



 あ、なんかウケた。



「そうだよね、昨日も宇留戸くん、話してみたら面白かった」



 江住さんが褒めてくれた。もう、今日は良い日だったとして締めくくりたい。



「あ、ねえ、その本、どんな話?」


「えーっと、学園物でカッコいい人がいて、ヒロインがその人を好きになって行くっていう……」


「なにそれ? 少女マンガみたいじゃなーい?」


「え、あ、うん……」



 あれ? 雲行きがおかしくなってきた? 



「少女マンガってアニメとかって、ヤバくない?」


「う、うん……」



 加留部さんも、福田さんも、少女マンガやアニメは、あまりお好みではないらしい。



「え? 僕は少女マンガもアニメもいいと思うけどなぁ」


「えー? オタクっぽくないー?」


「あ、僕オタクかも……」


「認めたよ! いいじゃないの? 自分が好きだったら」


「ホント? ありがと」



 加留部さんに許してもらえた(?)


 ただ、これだけの会話で、僕は汗だくだ。ちょっと席を外してトイレで汗を拭いてこよっかな。


 この時、横から江住さんの視線を感じたんだけど、見る余裕は僕にはなかった。

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