第28話:江住さんの夢
「あ、あのっ! 宇留戸くん!」
「はい」
江住さんが僕の部屋で急に意を決した様に言った。
「実は、かれっ、彼氏の部屋に行ったら、してみたかったことがあって……いいかな?」
どんなことだろうと、期待と不安があったのだけど、僕は「うん」と答えた。
「てっ、てっ、手をつないでもよろしいでしょうか?」
なぜ急に敬語!? 江住さんは益々顔が真っ赤だし、本当に可愛い。手ぐらいお安い御用だ。むしろ、僕だって江住さんと手をつなぎたいくらいだ。
僕は黙って、手を出した。
江住さんは恐る恐る僕の指に掴まるみたいにして手をつないだ。
「ずっと思ってたけど、宇留戸くんの手って大きいよね」
「そうかな?」
「そうだよ。ほら」
そう言うと、彼女は掌を僕に向けてきた。掌を合わせてみて、ということだろう。
手首の辺りを合わせて掌同士を合わせてみた。僕の指の方が第一関節分くらい大きかった。
「わぁ、男の子の手だ!」
江住さんが驚いていた。でも、僕はやや我慢できずに、指を滑らせて「恋人つなぎ」のように手を握った。
「あ」
江住さんの口から音が漏れたと同時くらいだったと思う。僕は、彼女の首元に左手を滑り込ませ、ゆっくりと顔を近づけた。
僕たちの顔がすごく近づいたとき、江住さんは真っ赤な顔をして目を瞑っていた。僕はマンガやアニメで見た知識を総動員して彼女の唇に自分の唇を重ねた。
ほんの一瞬だったのか、数秒だったのか、顔を離した時、江住さんは真っ赤になって、目は合わせられないでいた。彼女はしきりに前髪や耳の当たりの髪の毛を気にしていた。
僕はなにか感想を言った方がいいのか、お礼を言った方がいいのか、やや固まっていた。
「……」
「……」
トントン
ここでドアがノックされた。その音と共に、江住さんが少し僕から距離を取った。
「は、はい」
僕の返事と共に恵美がドアから顔だけ出して、ちょいちょいと手招きしていた。
江住さんに目線だけで「ちょっと待ってね」と伝え、席を立ってドアに向かった。
「ごめん、お邪魔った? これもぜひ読んでほしくて……」
少し遠慮気味に
俺には分かった。要するに、江住さんが可愛くてもっと仲良くなりたかったのだ。
「よかったら、一緒に話さないか?」
「……いいの?」
「江住さんもいいかな?」
「うん、私もお話したい!」
いい具合に恵美を引き込めた。あれ以上は僕の心臓が持たないと思った。
「お兄ちゃん、おやつとジュースがない! キッチンから持ってきて!」
「は、はいっ!」
なぜか僕は敬礼してキッチンにおやつとジュースを取りに行くことになるのだった。
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