Day 27 水鉄砲
嵐の翌日、海辺で人魚が発見された。高波によって運ばれ、崖から生えた松の枝に引っかかったらしい。人力では降ろせないため、ひとまず有志が集まって、水鉄砲で人魚に海水をかけるなどした。
人魚などなかなか見られるものではないので、ぼくは兄と連れ立って海にでかけた。岩場から見上げた人魚は、絵本やなんかで見るような美しい生き物ではなかった。顔立ちがチョウチンアンコウに似ている、と思った。
「これ、乾いてしもたらどうなるんや」
兄が岩場にいた顔見知りのおじさんに尋ねた。おじさんは水鉄砲に海水を汲みながら、「乾いたら死ぬやろうなあ」と言い、「ボクらも手伝ってくれんか」と竹筒でできた水鉄砲をふたつ手渡してきた。
ぼくと兄は、人魚に向かって水鉄砲を発射した。兄の方は届いたが、ぼくの方はてんでダメだった。
「結構力が必要やからな」
おじさんはぼくを慰めるようにそう言った。
人魚は腫れぼったい目をだるそうにこちらに向けていた。このままでは近く死んでしまうのだろうな、と思った。
その次の日、町内会が用意したクレーン車が、とうとう人魚を海に戻したという。昨日のおじさんが、酒屋をやっていたぼくの家にやってきて、カウンターで父と話しているのをこっそり聞いたのだ。
「せやったらめでたしめでたしちゃうんか」
「それがちゃうねん。あいつ、海に戻した途端に鮫に食われたんや。でっかい鮫やったで。ずっと下で人魚が落ちてくるのを待ってたんやろな」
水鉄砲手伝ってくれた子らには悪くて言えんわ、とおじさんがぼやいたので、父もぼくも兄には黙っていた。大人になった今でも、兄は人魚の末路を知らないはずである。
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