Day 28 しゅわしゅわ

 夫の出身地のあたりでは、ゆきのことかゆきんことかいうものが、時々山から人里に下りてきて悪さをするらしい。

 彼らは雪のように肌が白く、普通の人間の半分ほどの大きさしかないため、二、三匹がくっついた状態で人間に擬態するという。ほうっておくと蚕や干し柿を食われたりするので、ゆきのこだと知れたらとにかく水に浸ける。そうすれば溶けて消えてしまうのだそうだ。

「まぁ擬態が下手くそだから、大抵すぐにばれるよ」

 と夫は言う。見た目が歪な上、話しかけても簡単な相槌しか打てないし、体からぴちぴちと氷の溶けるような音がするそうだ。


 昨年夫の家に現れた個体は、わたしの姿をしていたというから驚いた。義両親も義妹もすぐに気づいたが、「面白いから、あとで義姉さんに見せましょうよ」と義妹が言い出し、まずなんやかやと言いながら一緒に写真を撮ったという。

 それから義母が「お風呂場に鼠が住み着いてるみたいなの、ちょっと一緒に見てちょうだい」と言って、ゆきのこを浴室に連れだした。タイミングをはかってゆきのこの背中をどんと押すと、そいつは水を張った湯船にまんまと転がり込んだそうだ。濡れた途端にゆきのこはぽきっと砕け、しゅわしゅわ言いながら溶けてしまったらしい。それを笑い話として話す夫の姿に、わたしは育ってきた文化の違いというものを見た気がした。

 ちなみに写真には白い塊のようなものしか写っておらず、義妹はずいぶんがっかりしていたという。

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