Day 18 群青
ぼくの故郷の海はほんとの青なんですよ。あそこに手を浸けたら青く染まってしまうんじゃないかっていうくらいの青色なんです。
特に夏は青くてね。時期で違うんです。春の海のどこかぼんやりと緑っぽい感じがだんだん抜けて、入道雲がわく頃には目も醒めるような群青になる。もう青くて青くて、うっかり海に吸い込まれそうで怖くなるくらいですよ。
その頃になると年に一度、神様が渡ってくる頃合いでね。そう、ぼくの地元では神様と言うんですが、あれが本当に神様かどうかはちょっと。
海が群青になると、三十メートルは優にあるだろうという巨大な海蛇が、銀色の体をぎらぎら煌めかせて海の向こうからこちらの浜へ向かってくるんです。浜へ揚がりゃしませんけどね、物凄いですよ。その時期は浜へ行っちゃいけなくて――波に飲まれるからね――浜へは祭壇を作って供物を捧げておくんです。
神様が来た後は波打ち際に魚群が打ち上げられるもんで、もうお祭り騒ぎですよ。ずっとずっと昔からそうやって、夏は神様が海の向こうから来る季節だってんで……懐かしいですねぇ、本当に凄い色なんですよ。今でもあの群青色なのかなぁ。
いや、帰りはしないんですけどね。
何年も前に僕の姉さんが供物に選ばれちゃって、それから後はもうあの海を見られなくなって、こっちに出てきたんです。四方八方どこを見ても海がないから、この土地はいいですね。
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