Day 14 幽暗
小さい頃に一時期、やたら大きな家に住んでいた。昔旅館をやっていた建物だそうで、造りは立派で美しいけれど、家中の電灯を点けてもそこここに薄暗い部分がある。幽霊はそういうところに棲んでいるのだというのが、姉の持論だった。
病弱な姉は、私が物心ついたころにはすでに寝たり起きたりの生活をしていた。比較的日当たりのいい八畳間を私室として与えられていたが、そこも茶箪笥のある辺りなどはなんとなく薄暗い。「あそこにも幽霊いる?」と尋ねると、姉はにやっと笑って「いるよ」と答えた。
「怖くないの?」
「わたしもそろそろ幽霊だからね」
自分の寿命を知っていたのかどうか。事実、姉はその家に住んでいる間に亡くなった。ただの風邪だったはずが、拗らせて寝たきりになり、幽鬼のように痩せて青白くなって息が絶えた。
姉の死後、私は家中の薄暗がりを、姉の幽霊を探して彷徨った。目の端にぼんやり映っているうちは、そこに見覚えのある裸足が浮かんだり、結んだ黒髪がちらついたりする。しかし真正面からとらえようとすると、薄暗がりは「ただの光が届いていない空間」になってしまい、幽霊の棲みかではなくなった。姉の姿をはっきりと見ることはできなかった。
父の仕事の関係でほどなくその家は引き払ってしまったが、今でもあの家の暗がりに姉がいるのではないかと思えてならない。三十年近くが経ったが、建物自体はまだあるらしい。
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