Day 24 絶叫

 不慮の事故で亡くなったA課長が、幽霊になって職場に現れるようになった。なぜか身長5センチくらいに縮んでおり、都市伝説やなんかで聞く「小さいおじさん」のようである。

 もっとも、小さくなったからといってかわいいわけではない。それどころか社会人としての軛から放たれた彼は、課内で好き勝手に振る舞うようになった。書類からクリップを外したり、わざとシュレッダーを詰まらせたりするのは日常茶飯事、女子社員のマグカップの中で寝るなどの狼藉も働き始め、「経費でお祓いをしたほうがいいのでは」などという話も出始めた頃、事件は起こった。

 今年大学を卒業して配属されたばかりの女性社員が、昼休みに家から持ってきたお弁当を食べようと給湯室の冷蔵庫を開けた。すると、冷蔵庫の中にいたA課長が勝手にランチバッグを開き、弁当箱の蓋をとって、女性社員謹製の卵焼きをムチャムチャと頬張っていたのである。むろん愛らしさなどは一片もなく、何とも嫌悪感を掻き立てる光景であった。若い女性社員はヒッ! と悲鳴を上げ、その後に続いて給湯室に入った私すらもウエッと呻いた。よく見ればミートボールにも歯型がついているではないか。キモい。ひたすらにキモい。新卒の子は涙目になっている。

 そこに颯爽と現れたのがお局さんだった。彼女は冷蔵庫の中を一瞥するとA課長をつまみ上げ、そのへんに放るのかと思いきや電子レンジに入れてあたためボタンを押した。絶叫が轟いたあと、ピーと電子レンジが鳴った。扉を開けると中には何もなかった。

 以来A課長はなぜか身長3センチくらいに縮み、前よりよほど大人しくなった。おいたをしそうなときは、給湯室で電子レンジの扉をバタンバタンと鳴らせば、ギイヤァと汚い声をあげて逃げる。以前にくらべれば楽なものだ。

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