Day 12 すいか

 すいかを手に入れたら、一度はぽんぽんと叩いてみるものである。

 特に大きくて縞模様がきれいで立派なやつは、さぞ中身が詰まっているだろうなとわかっていても叩いてみたくなる。先日八百屋の店頭で見かけて思わず購入したものがまさにそういうすいかで、家に帰ってごきげんでぽんぽんと叩いてみると、なんと中から何かが「ぽんぽん」と叩き返すではないか。

 気のせいかと思ってもう一度叩くと、やはりぽんぽんと返ってくる。ちゃんと震動がある。気のせいではない。試しにリズムをつけてぽぽぽんぽとやると、中からはちゃんとぽぽぽんぽと返ってきた。なにやらコミュニケーションがとれる気配がする。

「聞こえますか? これから質問することに、はいなら一度、いいえなら二度叩いて返事をしてください」

 すいかにそう話しかけてみると、中からぽんと叩かれた。

「あなたはすいかですか?」

 ぽん。

「黄色いすいかですか?」

 ぽんぽん。

「これから切るところだったんですけど、切っていいですか?」

 ぽんぽん。

「切って食べたら駄目ですか?」

 ぽん。

「じゃあ、割って食べてもいいですか?」

 ぽんぽん。

「だめなんですか?」

 ぽん。

「食べられるのがそもそも嫌なんですか?」

 ぽん。

「あなたはすいかですか?」

 ぽん。

「困ったなぁ」と独り言をもらすと、また中からぽんと返ってくる。「そうですね」じゃないんだよ。こちらは食べたくてすいかを買ってきたのだ。

「切っていいですか? このままだと冷蔵庫にも入らないんですけど」

 ぽんぽん。

「切っていいですか?」

 ぽんぽん。

「切りますね」

 ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん

「えい」

 埒が明かないので勝手に切った。

 中はみっしりと赤い実の詰まった、至って上等でそして普通のすいかであり、少なくとも「すいかですか?」という質問に対する答えは誠実だったのだろうなと思った。ともかくすいかには違いないので、冷やしたり切り分けたり塩をふったりして存分に食べた。甘かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る