第二話 マーメイドの呪い 20
エドワードの意識が半ば途切れた頃。
夢半ばで川のせせらぎに声を消されながらも話し声が聞こえてきた。
「そろそろ本当のことを言ったらどうだ」
「すべてはハッピーエンド。それでいいじゃない。」
「そもそもこんな遠方の魚人であるのにも関わらず何故バラウルに依頼した?紹介したのは誰なんだ。」
キマイラには今回の依頼、ひとつの疑惑があった。
何故マーメイドに関わる話を、その存在の知られたくない人間の探偵社にわざわざ依頼するのかということだ。バラウルがどういう探偵社か知っていれば納得もできるがこんなにも遠方にまで噂が届いているだなんてどう考えても可笑しい。
「ルイスを助けたかったけれど、私が個人的にマーメイドに関わることは掟で禁じられているってご存じでしょう?だから私が自ら動くことはできなかった。そんなどうすればいいか悩んでいた時に一通の手紙が届いたの。宛先はわからないけどこの手紙よ。」
そう言いながらキマイラの目の前に出した手紙には確かに宛先が書かれていなかった。
【その悩みを解決できるであろう場所を知っている。】
という一文が添えられバラウルの場所が書かれているだけの手紙だった。
「こんな怪しげなものを頼ってきたのか?」
半信半疑でキマイラは尋ねた。
「それほど悩んでいたのよ。とにかく私は手紙の通り遠方であるバラウルへ向かった。そして貴方たちに依頼をしたってわけ。」
もしかしたら手紙がいう通りに力になってくれるかもしれない、そんな僅かな期待でバラウルに行ったのだと。最初エドワードが対応したときはあまりにも普通の人間で無駄だったと思ったが、諦めきれず翌日もう一度話してダメなら諦めて帰ろうと決めていたそうだ。だが翌日、メアリーの存在を見て手紙の紹介を信じようと決めたそうだ。
「今日話していた理由についても依頼前から知っていたんですよね?」
「メアリーさんのいう通りよ。調査の依頼をしたけれど元々原因は分かっていたわ。この辺りの海ではその話でもちきりだったから。」
「どういうことだ?」
「元より村にはマーマンとマーメイドが暮らしていたの。」
「マーメイドって海底にいるイメージなんですが。」
「独身のころはね。結婚するとマーマンが住みついているところにうつる子が多いって聞くわ。マーマンは人と生活する存在だからその場からは離れないし。だから故郷を離れたマーメイドに対してマーマンは余計に大切にするの。あとはマーメイドが海底に戻るとすれば産卵期くらいね。」
「その巣はやはりルイスがいっていた場所か?」
「そうよ。海岸の人気のない崖の下に巣があったそうなの。崖の上には祠がありその周辺には伝承もあって誰も近づかなかったから安全な場所だったそうよ。彼らの存在を知っている人間も半信半疑で伝承も半ば風化しつつあったみたいね。だけどルイスの帰宅で一気に流れが変わった。
存在が確信に変わり、伝承にあった呪いは偽りだと確信した村人は真っ先にその場所に向かった。もし伝承の存在が真実ならば不老不死もまた真実ではないだろうか?って思ったのね。人々は不老不死を求めてマーメイドを探し、とうとう巣が見つかりマーマンが不在中マーメイドは殺されたわ。」
「まさか、そのマーメイドは」
「えぇ。食べられた。半分は人間だというのに残酷よね。人間の欲がいかに恐ろしいものかという話で私たちは恐怖したものよ。」
「当然マーマンは怒り狂うだろうな。」
「えぇ。当然マーマンは昔から共生し尽くしてきた村に報復したわ。」
「それであの惨状か」
「でもマーマンがしたのは井戸に毒を流し周辺の魚をすべて食い尽くしたくらいよ。もしそれだけだったら一時的に苦しんでもあそこまでの惨劇にはならなかったでしょうね。」
「じゃぁ、一体誰が…。」
「その異変に気づいた村人は自らの疚しさでマーメイドの残った遺体を海に捨てた。それが最悪の自体を起こすだなんて知らずにね。だから意図とはしていなかったと思うわ。」
「マーメイドの遺体は腐敗すると毒になるからな」
「そう。マーマンがまいた毒であれば一時の苦しみで済むものの村人たちは長い年月をかけないと朽ちることがない毒の塊を海にほかってしまった。当然マーマンが食い尽くした海にその後魚が戻ることはないわ。海で毒が薄まることもないから完全に遺体が朽ちるまで村はあのままね」
「マーマンはどうなったんですか?」
「マーマンは今川にいるはずよ。海は毒されているし。それでも村は捨てたものの唯一関係のないと分かっている村人のルイスのところには度々来ているみたいね。」
「別の場所にうつったりはしないんでしょうか?」
「いまでもマーマンは対を殺した相手を探しているから無理ね。村の状況を見る限り見つかることもないでしょうけど。それでも探し続けると思うわ。」
「そんなのって」
「不老不死なんてあるわけもないのにね。ひどい話よ。いつまでマーメイドのはその噂に悩まされなければいけないのかしらね。」
マーマンは探し続けるだろう。
自分の愛する片割れを見つけることはもう永遠にない。
喪失と怒りそして悲しみ
きっとマーマンは大切にしてきた村を許すことはないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます