第1話 若返りの泉 5

 翌日アルバーノの会社へ二人は向かった。

 ナターシャから渡されたメモにあったアルバーノの会社は予想以上に大きな会社で会社を目の前にしてメモをもう一度確認してしまった。

 だがやはりあっているようだ。

 アルバーノがこの会社で昇進したのは半年前、消息不明になる前だ。

 半年たっているが、昇進するくらいだからすぐに見つかるだろうと容易に考えていたがすぐにその期待は裏切られた。


「こちらで働いているアルバーノ・ロッソさんにお会いしたいんですが」


「お約束はありますか?」


「いえ、知人に紹介されてきたもので。連絡だけでもとっていただけますか?」


「お約束がなければお会いできません。アポイントをお願いいたします。」


とテンプレートな返事が返ってきた。

 道行く人たちには笑顔で挨拶するからもっとフランクに対応してくれると思ったがそうではないらしい。

 考えた末にエドワードは嫌なアイデアを思いついたらしい。ため息をついてからこういったのだ。


「警察署の方から来たものですが」


「少々お待ちください」


 『警察署』そう聞くと受付嬢は慌てて頭を下げると連絡をとろうと名簿を探し出した。

 その間エドワードにはメアリーの視線がちくちくと刺さった。確かに先ほど警察署の前を通ってここへは来たが絶対に言い方が違う。これは警察からも怒られるパターンのやつだった。

 ナターシャ曰くアルバーノはこの会社で働いているそうだが、警察署からという話を真に受けた目の前の受付嬢の表情は険しいものだった。


「どうやら、そういった方は働いていないようです。どちらの部署かお分かりですか?」


「部署は分からないんですが、もしかしたら半年ほど前に退職されている可能性もあるのですが」


「ちょっと待ってくださいね…えっと…退職者名簿にもそういった方はいらっしゃいません。恐らく何かの間違いではないでしょうか?」


 退職者の名簿から調べてもらっても分からないとなると、ナターシャが知るアルバーノの勤める会社は結局ここではないということなのだろう。そしてそうなると、ナターシャから聞いた会社に関する評価全てが偽りだということになる。


「アルバーノはなんかの詐欺師か何かなの?」


 アルバーノの会社だったはずの場所からの帰り道、またしてもアルバーノの不審な動きにとうとうメアリーがあらぬ疑いをかけだした。


「詐欺師が名家の令嬢なんてうまい獲物を目前に逃げるか?普通ありえないだろ」


「ナターシャに正体がばれそうになったとか」


「それなら何故ナターシャは探してるんだ?」


「じゃぁナターシャのご家族にばれそうになってナターシャは知らないっていう可能性は?」


「ありえない話じゃないけど、それを確かめる術はナターシャに禁じられてる」


 そう、依頼を受ける際にナターシャに自分の家族に事情を聴くのはやめてくれと言われていた。もともと名家だから簡単に会うことなんて出来ないのにわざわざそう付け足したのだ。

 アルバーノにも不可解な点が多いがナターシャはナターシャで秘密主義に感じるところがある。依頼人の情報を探ることはあまりないが、正直ナターシャの仕事やお家事情も気にならないと言ったらウソになる。


「家族に会わないでほしいって?」


「あぁ。だから次はここだな」


 ナターシャのリストに書かれていたアルバーノの自宅と仕事先はもう調べてしまった。ナターシャにはアルバーノの行きそうな宛ては心当たりがないということだし会社もあてにならなかったから、交友関係は分からないしあとは役所で実家を調べるしかない。

 一般的には絶対教えてほしいといっても教えてもらえる情報ではないが、紙幣を数枚多く握らせると彼らも饒舌になる。詐欺の可能性もあったため本名は存在しない可能性もあったが、そうやって調べてみるとアルバーノ・ロッソという人物は確かに存在していた。

 役人にもらった用紙には、実家の住所や両親の名前と家族構成そして今まで居住してきた住所が並んでいた。何度も引越をしているようだが、つい昨日訪れた場所で終止符が打たれていた。


「昨日の場所じゃない。」


「本当にこの後の住所はありませんか?」


「転居届は出ていませんのでこれが最後の記録となります。」


「分かりました。ありがとうございます。」


エドワードは手帳にそれらの情報を事細かく記入すると、受けとった用紙をスタッフに返した。


「アルバーノの実家にいってみるの?」


「今までの住所に行ってもいいが、戻ることはまずないだろう。とりあえず実家に行けばなにかつかめるんじゃないか?」


「なんていうのよ。まさか正直に「お宅の息子さんが行方不明で」だなんて言わないでしょうね」


「事実はそうなんだからそういうことになるだろうな」


「警察よんだ大騒ぎになるわよ。」


「本来失踪事件ならそうなるべきじゃないのか?」


 そう。おかしな話なのだ。

 消息不明だとすると何故ナターシャはまず警察に相談しなかったんだろうか?本来行方不明者の届け出は警察にするべきだというのに。

 ナターシャに来てもはぐらかされるばかりだったが、もしかして何か警察が関わってはいけない事情でもあるのか?と疑ってもおかしくはない。

 もしそんな事情があったとしても、実の両親が捜索願を出せば問題はないはずだ。


「それに、もしそうならなければご両親は確実に」


「居場所を知っているということ?」


「その通り」


 どちらに転ぶにしてもなんらかの収穫はここで得ることが出来るだろう。

 住所によると街はずれの郊外にアルバーノの実家はあるようだ。電車もなく車でしか移動できない場所で車をつかっても2時間かかる場所だった。

 往復だと4時間ちょっと。これで収穫がなければ今晩はヤケ酒だとエドワードはこころの片隅でそうつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る