第1話 若返りの泉 6
アルバーノの実家につくと滅多に客がこないようで、ベルをならしても中々住民は顔をださなかった。10分ほど扉前でベルをならし続けるとようやく気づいたのかアルバーノの母親が慌てて扉を開け、そして第一声の「セールスならお断り」という辛辣な出迎えをされた。
自分たちが探偵なのだということと息子であるアルバーノの恋人に頼まれて行方を探している事情を説明したが扉を開けたアルバーノの母親は訝し気な表情を変えないまま拒絶を示した。
少し話がしたいと頼むと家の中に入れてくれたが、あからさまに歓迎はされず後からやってきたアルバーノの父も同じようにそろって不愉快だという表情を浮かべ続けていた。
「アルバーノもいい大人なので、もし自分で家を売ってどこかへ引っ越したのならそうなんでしょう。我々が関与することはない」
「そうね、もし行方不明だとすれば自分で自分の家を売るだなんておかしな話だもの。なにか事情があってそうしたんでしょうけど、自分でしたことなのなら大丈夫だわ」
放任主義?否、もしそうであれば多少なりとも心配はするだろう。
この反応はどちらかというとアルバーノの件に関わり合いたくはないというものか、もしくは…。
「もしかして行先に心当たりでもあるんでしょうか?」
「さぁ。あまり干渉しないようにしているから。」
「どうしてもアルバーノさんと連絡がとりたいので、もしアルバーノさんがここへ来ることがあればこの番号をお伝え願えませんか?」
「分かったわ。」
心当たりはあるか?と尋ねたときの両親の反応はとても分かりやすいものだった。「知るわけがない」とか「今は連絡を取っていない」というならまだ分かるが、干渉しない?その言葉は現状は知っていて口を出さないといっているようにもみえた。
両親から話が聞けたのはほんの二言三言の10分足らずのことだった。
全くアルバーノのことを話そうとはしない両親にエドワードはこれ以上ここにいてもなにも収穫がないとみて早々に会話を打ち切きろうと席を立った。
その時一枚の写真が目に入りふと疑問に思った。
「あ、最後に一つ。アルバーノさんにお兄さんがいたんでしょうか?」
「アルバーノは一人っ子だが」
「ではあちらの方は」
この家で唯一飾られていた写真だった。
そこにはここにいる夫婦ともう一人アルバーノより10は年上の男性が映っていた。帽子で顔の認識は難しいが多分その位は上だろう。
母親が口に手を当てて、その動作を咎めるように父親が咳払いをしてエドワードに指摘された写真を伏せた。
「彼は知り合いだ。」
こんなことってあるだろうか?
知り合いの写真はあるというのに実の息子の写真は一枚も飾られていない。
思えばこの家にはアルバーノのものと思われるものは一切ない。子供がいた形跡も一切ない。アルバーノがこの家を離れてからかなりたつとしてもここまで息子の存在を示すものがないのは妙な話だ。
最初からアルバーノはここに住んでいなかった?否、役所の住所はここで間違いがないはずだ。では一体どういうことだろうか?
「すみません、帰る前にもう一点。息子さんのお部屋って見させていただくこと出来ますか?」
アルバーノの部屋まで探すつもりはなかったが、もしかしたらアルバーノ部屋がこの疑問を解決するヒントになるかもしれない。でもこの感じからするともしかしたらアルバーノの部屋はないと言われるかもしれない。
「何故急に」
あるのか?不審がる表情の父親が一瞬階段の上を見る。
アルバーノがそこにいるというのは考えすぎかもしれないが、アルバーノの部屋があるのは間違いない。
「5分、5分だけでいいんです。我々も依頼人に手がかりを探してほしいと頼まれている手前何か一つでも報告できるものがないと…」
エドワードがどう頼もうと考えているとき、もう外にでたと思っていたメアリーが引き返してきていつの間にか横に立って両手を顔にあてた。いうにしてもストレート過ぎだろうとメアリーの演技にあきれエドワードは浅くため息をついた。
だが予想外にアルバーノの両親は情が深いらしく先ほどまで怪訝な表情を浮かべていたのにメアリーの動作に仕方ないと5分だけ息子の部屋を見ていいと許可を与えてくれた。
「ありがとうございます。絶対5分で出ますので。お部屋も絶対に散らかしません。」
「分かったわ。」
メアリーの演技により上がることを許されたアルバーノの部屋はごくごく普通の部屋だった。恐らく部屋をみる感じだと高校までここで過ごしたのだろう。学校の教材がいくつかと趣味の本が何冊か。そして棚の隙間から先ほど見た写真と同じ知人の写真が一枚だけ。
両親が知り合いの写真を飾るのはまだあることだろうが、アルバーノが両親と知り合いだけの写真を何故持っているのだろうか?
「またこれか。」
だが不思議なことにアルバーノの部屋にあった写真を見れば見るほど、どこか見覚えがある気がした。その違和感をぬぐうことはできず、エドワードは両親が廊下で見ていないのを確認するとこっそり胸ポケットに写真をしまった。
一方のメアリーはというと部屋に入ってから何をするわけでもなく、考える様子で先ほどからずっと窓から外を眺めていた。
「メアリー5分しかないんだ。ちゃんと」
「この部屋の臭い…どっかでかいだ記憶があるのよね」
「ったくお前は犬か。今の居場所の分かりそうなものを早く探さないと」
「そうね。」
だが使っていただろう机にも棚にも勿論ベッドの周辺にもどこにも現在の居場所の参考になるようなものは一切なかった。それだけでなく高校以降の消息が分かるものは一つもなかった。
「そろそろいいかしら?」
控えめにあいている扉をノックする音が聞こえ、顔を上げると扉のところにアルバーノの母親がこまった表情で立っていた。約束の5分がとうに過ぎていたようだ。
家を出る際に夫妻にお礼を言い家を後にする。実家にいけばようやくアルバーノのなにかつかめるきがしていたが、逆に実家に行ったら余計にアルバーノという存在が霧の中にいるように分からないものになったきがする。
それに未だに二人は何か引っかかっているものがあった。
それは車の中だけでなく乗り換えた後の路面電車に揺られながらも続いており、二人は全く会話もせず互いに顔をあわせることもなかった。
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