第二話 マーメイドの呪い 18

夕暮れ時

木々が方向感覚をおかしくさせるが目印がないわけではない。

だがもし一度通った道でなかったら確実に迷っていただろう。

一度通った道だからこそスムーズに進め、1時間ほど歩くとルイスの家に辿り着くことができた。


「また来たのか。二度と来るなと言ったはずだが」


「そうでしたっけ?」


メアリーはニヤリと笑いながら話があるとルイスの家に入っていった。


「もう何も話すつもりはないぞ。」


「えぇ、結構です。ですが聞いてもらいたいことがあって来たんです。」


「一体なんなんだ。」


「単刀直入にいうと、今回の一連の騒ぎですが貴方に一切の責任がありません。」


何を突然言い出すのかと思いきやそんなことがとルイスは椅子に腰かけた。

「どういうことだ」と尋ねながらも慰めなんて今更言われたところで心が癒えることはないのだと分かっていた。


「言葉のままです。船での災難から村での災難にいたるまで、その一切において貴方には責任がなかったんです。貴方はただトラブルの渦中にいたというだけ。そして体よくそのことを利用されてしまっただけのこと。」


「そんなわけがあるか。マーメイドを見たのは間違いないんだ。」


「えぇ、そうでしょう。私たちも見てきました。結果、何も問題はありません。もちろん呪われてもいませんよ。」


「じゃぁ一体何故乗組員たちが消えたんだ。」


当然の疑問だろう。

船室にこもっていたのだから当時の状況は分からないだろう。乗組員たちが何故消えたのか?それは恐らくマーメイドの言っていた帰ってこられない状況に陥ったからではないかと推測できるが実際にどうなったのかは分からない。

それでもメアリーは話をつづけた。


「これは隣町の話です。あの地図にあった海域は危険地帯として有名な場所だそうです。何隻も沈没し何隻も行方不明になることで有名だったそうです。実際行った所はその噂が不思議なほど穏やかな場所でした。

ですが、穏やかな海であると同時に人の感覚を狂わせるような場所でした。

そして貴方が見たマーメイドですが、確かに存在していました。

ですが、それは貴方の言う呪うためではなくただ警告をしていただけでした。

危険な地帯だからいち早く立ち去るようにと。私たちも同じようにマーメイドから警告を受けたんです。

貴方方が探していた村の船やご一緒に捜索にでた船の乗組員の方たちは、間違いなくあの場で被害にあったのでしょう。そして唯一船室から出なかった貴方だけが運が良かったのか悪かったのか助かった。

船長も船員もいない中あの嵐を抜けたのは流石に奇跡的すぎて驚きですが、間違いなく言えるのは長期間船室から出なかったことで被害にあわずにすんだんです。」


もし出ていれば、朝日が昇り境界線が再びつながった時に船と共に帰っては来られなかっただろう。


「村は」


村が壊滅状態になった理由をルイスは尋ねたがメアリーは頭を振った。


「そこはまだ調査中です。今現状分かっているのは実際同じ場所に行き同じ経験を私たちは村の伝承の言う呪いというのにはかかってはいないということだけです。だから貴方も呪いにはかかっていないんですよ。」


「だが本当に行ったかどうかも怪しいしな」


疑いの目を向けるルイスにやっぱりというようにキマイラは

「そういうと思った。」

といいながら、ポケットから真珠のネックレスをだした。

それはあの嵐の前に出会った人魚が身に着けていたものだった。

そして目の前の壁に大きく描かれている人魚もまた身に着けているものだった。


「それは彼女の」


「そうだ。あの絵に描いてあるネックレスだ。これで信じてもらえるか?」


「ならば、また彼女に会えるだろうか?」


「会わないほうが賢明だな。二度目の幸運はないと思ったほうがいい。」


***


「誰だ!?」


エドワードは急に立ち上がり外に出た。


「どうしたの?」


「誰かが家の中をのぞいていたんだ。」


「出てきたらどうだ?」


キマイラの声にこたえるように木陰から人が出てきた


「驚かせるつもりはなかったのよ。本当よ。ただ出ていくタイミングを逃してしまって出れなかっただけなの。」


「アーネット!?」


「ルイス久しぶりね」


アーネットが声をかけてようやく一同は友人の名前を思い出した。

不思議といままで靄がかったように思い出せなかったのだ。


「何故君がここに。どうしていままで」


「すぐに来れなくてごめんなさい。気まずくて、ルイスの居場所が分かっても会う勇気が出なかったのよ。でもあなたが無事でよかったわ。」


「何故こんな探偵をやとったんだ。私は君に来てほしかったんだぞ。」


「事情があるのよ。迷惑だったらすぐに」


「迷惑なわけあるか!どれだけ君にあいたかったと思う。」


ルイスはアーネットの両肩に手を当てたまま、うなだれるようにアーネットの肩に頭を預けた。


「とにかく中へ入りましょう」


バラウルから来ている三人はこんな探偵と言われ口をはさむにはさめず、二人の会話を気まずい思いで聞いていた。だがそんな気まずさを壊すようにエドワードが口をはさみさっさと中へ入って行ってしまったから助かったと言わんばかりにメアリーとキマイラは後に続いた。

そして急にエドワードが仕事モードの口調にしたのが何故か可笑しくて笑ってしまった。

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