第二話 マーメイドの呪い 19
エドワードとメアリー、そしてキマイラはアーネットとルイスを残して中へ入ってしまった。
久しぶりに再会した二人の邪魔はしたくなかったのだ。
本当はまた翌日来ますと言って家から出たいところではあったが、さすがに今から泊まる宿を探すのは難しくできなかった。
結局アーネットとルイスはしばらく家の外で話をし、2時間ほど後にようやく中へと入ってきた。
「お待たせしました。」
「いえ、再会できて本当に良かったです。」
「ありがとう。」
アーネットが席に座るとルイスはその場を離れ人数分ではあるが不揃いのカップをもって帰ってきた。
「先ほど話していた件ですが、依頼主であるアーネットさんもいらっしゃいましたし改めて依頼の進捗状況を説明したいのですが、この場でお話しても宜しいでしょうか?」
「かまわない。」
「先ほどルイスさんには責任がないとご説明したところでしてアーネットさんもよろしいでしょうか?」
「そうね、お願いするわ。」
「ではまず、マーメイドの呪いについてですがおそらくは眉唾物だったと思われます。行方不明の船ならびにルイスさんが被害にあった船は同じ座標で事故にあいました。これは間違いないでしょう。ですが、実際に先日こちらの地図の場所に行ってみたのですが穏やかすぎる海に忽然と日記の通りマーメイドが現れ警告を受けました。おそらくルイスさんの時も同じように警告するために現れたのかと思われます。マーメイドはたびたびそうやって船に警告するも聞きいれてもらえず、その結果船は事故にあうのだと話していました。」
「マーメイドにあったのね」
ちらりとエドワードのほうをアーネットは見るが気まずそうに目線をそらされてしまい「続けて。」と笑いながらメアリーにいった。
「会いました。ですが、害を及ぼそうというわけではなく、どちらかというとマーメイドのお陰で私たちは助かりました。忠告を受けて急いで引き返したので助かりましたが、その際に大変な嵐に見舞われました。もしあれが手遅れだったらどうなっていたか。」
「ふふ。マーメイドは嵐を呼ぶという噂があるそうよ」
「それは恐らく逆ですね。嵐を警告しにマーメイドが現れるのでしょう。」
実際には境界線をぬけるのに嵐を通ることになったのだがそんなこと説明しなくてもいい。いまはただマーメイドの誤解をとくことが最優先だった。
「他の船もあっただろ?」
豪華客船もそこにあったはずだとルイスは尋ねた。
「行ったときには一隻もありませんでした。流されてしまったのかもしれません。」
「私は潜ったが見える範囲では見つからなかった。」
きっと流されてしまったのねとアーネットは苦笑した。
「よって、あのマーメイドがルイスさんを呪うということは考えにくいかと。」
「先ほども聞いたが、では何故村はあぁなってしまったんだ」
「そこはまだ調査中です。そこで聞きたいのですが、村でマーメイドを祀っている場所はありましたか?」
村でのことを話すのは気まずかったが、ルイスのほうからふってくれて助かった。
お陰で聞くかなやんでいた場所について話の流れで尋ねることができた。
「あったが、あそこは人が立ち入っていい場所ではないと聞いている。」
間違いなくそこが伝承の元になったところだとすぐにわかった。
エドワードの言う通り港町なのだからマーメイドの伝説はあるあるなのかもしれない。そうなると祀っている場所やちなんだ場所は何か所かあることを想定していた。だがそれが一か所となるとほぼ間違いないだろう。
「ちょっと待って。調査の続行は中止して欲しいのよ。」
「何故ですか?本来の依頼はマーメイドの呪いについてですよね?村の惨劇の調査がメインの依頼だったはずですが現状だけでは不十分かと。」
「そっちは私のほうで調べがついたのよ。それに村の惨劇が手がかりになればと思ったけれど本来私がお願いしたかった目的の方が先に達成できたのであればそれで十分だわ。」
今回アーネットはルイスが戻ったことで村に惨劇をもたらしたのではないのだと証明したかったのだとうちあけた。
だからルイスの罪が晴れたのであればそれでいいのだと告げた。
「ちなみに、何故村はあのような惨劇になってしまったのでしょうか?」
分かったのであれば教えてほしいとエドワードは真剣な表情のまま聞いた。
その問いにアーネットは困った表情を浮かべキマイラを見るが軽くうなずき返されるのを見て口を開いた。
「村人が自ら毒をまいたのよ。」
「どういうことです?何故自らを苦しめるようなことを」
「マーメイドの伝説の一つにマーメイドの血肉を食べると不老不死になれるという内容があるのを知っているかしら?」
「長年生き続けるイメージのついているマーメイドだからこその伝説ですね」
「もともとあの村はマーメイドが身近な存在だったのよ。ある少数の村人だけがその事実を知っており、村の伝承に残し続けてきたの。だからマーメイドに会ったら呪われるという伝承は村人がマーメイドを探さないようにするためのものか、過去にマーメイドでトラブルがあったということを伝えるものか、その両方かもしれないわね。
とにかく、その伝承もあって今まではマーメイドの存在を知っている者でも手を出そうとは思わなかった。だけどルイスが帰ってきてしまった。」
「どういうことだ?」
「貴方が無事に帰ってこれたということは、伝承にあったマーメイドの呪いが嘘だったということを証明するものになったのよ。もともとマーメイドの所在について目星を立てていた村人たちは、ルイスの帰宅をみて安心して進入禁止の場所に踏み込んだ。そして毒をまき海に潜んでいるであろうマーメイドを待った。結局、予想ははずれ毒だけが村に残ってしまったってわけ。その時はルイスはすでにこの山奥へ移されていたから、責任を負うべき村人たちは猶更都合よくルイスに罪をきせたのね。」
すっかりメアリーもキマイラも納得してルイスの今後について話続けていたが、結局呪いなんて存在しなかったという結果に安堵する半面、エドワードは腑に落ちない部分がいくつかあった。
村周辺の海だけを汚染するというのにも違和感が残る。
広大な海だからこそ全体で薄まるものではないのだろうか?
村周辺の海域では村に向かって潮が流れて対流しているということだろうか?
だがいくら対流していたとしてもそんなに残るとは考えにくい。
そして村人が海に流したという毒が何故村を汚染したのかも理解できない。
毒が揮発性のものだとしても一時で終わるはずだし、そうなると未だに害を及ぼすほどのものだとは到底思えない。
海の汚染とは別に考えても妙な話だ。
海が汚染されたこのタイミングで伝染病が広がる?
それはあまりにもタイミングが良すぎるんじゃないか。
そう考えるとやはり海の汚染と伝染病には何らかの関わりがあるのだろう。
食糧難で汚染された海の魚を食べ続けているか
もしくは、海の汚染をしっている誰かが意図的に今回の騒ぎを起こしたか。
否、あの村にいるだけで自分も間違いなく被害にあうだろう。
そう紋々と悩みながら眠れないエドワードは布団を頭の上までかぶった。
あれから何をきいてもはぐらかされてしまうのだ。
自分が考えすぎなのか?とも思う。
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