第二話 マーメイドの呪い 17

今回の船旅は危険を伴い日数もかなりかかったが、収穫はあった。

マーメイドは実在したが、歌声は警告で事故とは全く関与していないということが分かったのだ。

それはマーメイドを見た物は呪われるという伝承を完全覆す事実だった。

だが、当然それならば何故という疑問が残る。


「もう一回アーネットの友人を訪ねるか?」


「きっとあれ以上知らないだろうし、もう尋ねないという約束だろう」


「アーネットさんの友人は結局なにも悪くはなかったということだよね?」


「あぁ。ただ伝承に怯え、運悪くその伝承の存在と出会い、一人だけ生き残って村へ帰ったというだけだ。」


言葉にすると改めてなんて不運な人物なんだと思ってしまう。


「じゃぁ逆に何故このタイミングで村が壊滅状態になったんだ?」


「アーネットさんの友人が原因だとしたらタイミングはずれてるね」


「それに今まで村は何の問題もなかったと考えると、いささかタイミングが良すぎる気がする。」


何故このタイミングなのか?

それを考えたところで答えは見つからなかった。

そんな時キマイラはふとわいた疑問を口にした。


「なぁ、思うんだけど伝承が残る場所っていうのはそれなりに伝承とつながりがある場所なんじゃないか?よくそれにちなんだ名称を場所の名前にしたりするだろう」


「マーメイドが身近だったっていうこと?」


「いくらなんでもそれはないんじゃないか?見たら呪われるとまで伝わってるんだ。ということは誰も見ていないんだろ?見てもないものを元にする地名はないだろうし、伝承はただの港町あるあるっていうところじゃないのか?」


「それにしては伝承に対して信仰があつすぎると思うんだよな」


「確かに、疑わしい存在であれば自然と風化しそうなものなのにいつまでも伝承として残ってるなんておかしな話よね。」


「そうなんだよ」


「その存在に確信を持っている人間がいたということ?」


「それなら私は納得ができるんだ。長年伝承が朽ちることもなく根強く残るために必要なのはその伝承が真実たる由縁じゃないかと思うしな。」


「だが、それは仮説の領域だ。」


「ねぇ、やっぱりもう一度アーネットさんの友達のところを尋ねない?責任はないってことを教えたいし、運が良ければ村の中の伝承に関係のある場所が分かるかもしれないし。」


「まぁどちらにしても、現段階じゃ手詰まりだからな。」


「だけどわざわざ訪ねなくても村の中を探せばそのうち出てくるんじゃないか?」


そういうエドワードの言葉にメアリーもキマイラも口をつぐんだ。

あの惨状だ。

当然もう一度行く気になれないし、出来ることなら滞在は極力短くしたい。

だから船を借りるのも返すのも海からわざわざ行ったのだ。


「二度と来るなとは言われてないでしょ?事故があった日のことについて二度と尋ねるなと言われただけだし、尋ねるんじゃなくて報告するのなら問題にならないんじゃないかな?」


「私は賛成だ。エドワードはどうする」


「結局は村の伝承に関係することを聞くことになるんだろ?あとだしっぽくないか?」


「なら様子を見て、聞くか考えようよ」


「それなら、まぁ。」


歯切れの悪い返事をするエドワードだが、ルイスに責任がないと報告するのならばとうなずいた。

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