第二話 マーメイドの呪い6
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2月10日
思えば数年前から事件はおきだした
どうやら仲間の一人が言うには、ある日を堺に『不思議なこと』が起こり始めたのだという
とうとう『不思議なこと』というには見過ごせないほどの事件が起こった
漁にでた何隻かの船のうち一隻だけが突如として消えたのだ
気付かなかったのか?
当然村では帰ってきた船の乗組員に聞く
だが船が一隻消えたという大事だというのに、誰一人として気付いた者はいなかった
偶然か?
事故か?
失踪した船は別の船着き場に行ってしまったのか?
とにかく村は大騒ぎになった。
当然、仲間の船を探しに村の船乗りたちは一度その場所を探すこととなった
それはこの村で初めてとも言える事件だった
ただ時間だけが流れるつまらない村だから不謹慎ながら私はわくわくしている
私も乗組員に名乗りをあげた
こんなチャンスは一生来ないかもしれない
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7月20日
何度船を出してもなにもみつからない
人一人、船一生
とにかく何も見つからなかった。
それでも私は船に乗り続けている。
だが、それもこれが最後。
もうすぐ半年となる事件に村から諦めの声があがっていた
今日は最後の出航から三日目
もうすぐチェックポイントだが、きっと今回も何も出ないだろう
船酔いと戦う日々もこれで最後だと思うと寂しい
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7月20日
親愛なるアーネットへ
君への手紙を日記に書くことを許してほしい。
これから書くことは全て事実だ。
チェックポイント直前、船は嵐に襲われた
何かの異変を感じた船長は船を前に進め、私たちは目的地へとたどり着いた
どうやら嵐の中へ入ったようだ
嵐はやみ、少し先ではまだ嵐が続いていた。
船員が一安心したちょうどその頃、
美しい歌声が海を包んだ
メロディーも分からない、言葉も分からない歌だった
自室から除くと海に女が泳いでいた
見たこともないとびきり美しい女だ。
そんな女が嵐の中で泳いでいる
私は背筋に冷たいものが走った
船員たちは声をかけ小舟を出し、手を差し伸べた
だが彼女に手を伸ばした船乗りは彼女に手を引かれ導かれるように海へ消えていった
美しいのは見た目だけだったのだ
恐ろしい光景はそれだけではない
次々に船員たちは小舟に乗り込み笑いながら次は我だと手を伸ばす
そして海に沈んでいくものを笑いながら見つめているのだ
異様な光景だった
そう思うのに、何故だろうか
私もまた彼女のもとへと行きたいという欲求が抑えられない
君への手紙を書き終え仲間たちのところへ行こう
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XXXX
どのくらいたっただろうか?
今まで船底の倉庫の暗闇にいたから久しぶりの日記だ
あの日、行くか留まるかそんな葛藤をし私は勝利した
その後私は仲間のところへ行くことはなかった。
永遠に聞きたいとそう願わずにはいられない歌声に耳をふさぎ私は必死に自室から船内の階段を下り、音の届かない船底の暗い倉庫へと身を隠したのだ。
辺りは静まったと分かった後も不安は拭えず、そのまま倉庫に身を隠し続けた。
今日が何日かも分からない
とにかく今日は恐る恐る外へ出てみた
驚くことに20人はいた乗組員はただの一人もいないではないか
船員のいないまま海のどまんなかを船は指針を失って漂っていた。
あの恐ろしい光景を思い出すと震えが止まらない。
きっとあの人魚に船員は連れ去られたのだ。
もう海にいたくはない
すぐにでも村へ帰ってしまいたい。
だがここには航海士もおらず、私は航海の道さえ分からない。
右も左も分からないのだ
この先どうやって帰るかさえわからない。
だが良いこともある。
あの恐ろしい歌声はやんだのだ。
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XXX
必死に食糧を節約する日々
その日々もようやく終わったようだ。
目前には見慣れた光景が広がっていた。
あのあとどうやって船を動かしたのかというと、ここ数回の航海で帰るときはとにかく南南東へ帆をはるのだということを覚えていてイチかバチかやってみたのだ。
遠くに流されてしまえば意味がなかったが、そう遠くはなかったらしい
私は帰ってくることができたのだ。
驚くことに出航から数か月行方不明だったのだという。
流石に食料事情から考えたらそれはないだろうと笑うが村人は真剣な顔で首を横にふった。
そして船員が私を除いて誰一人いないと知るや否や私は閉じ込められることとなった
着ていた服と服に隠していた日記以外は全て没収されてしまった
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XXX
未だ今日が何日かさえ分からない。
閉じ込められ、囚人の扱いを受けるのならあのまま海で死ねばよかったとさえ思う
船員はどこだ?
船で何があったんだ?
どうやって帰ってきた?
村長からの問いに全て答えると、「何故この村に帰ってきた」と叱咤された
ただ自分の村へ帰ってきただけのことなのに何がいけなかったのか分からない
理由を聞くとその答えはなく、代わりに言われたのが
「お前は人魚に呪われている」
という台詞だった
どういうことだと聞き続け、ようやく聞けたのは村の昔話だった
私と同じように人魚と会い、村に帰ってきた人間の話だ
正直昔話が原因でこんな扱いを受けているのかと思うと、「まさか!?」と言いたくなる
だが人魚の存在すら昔話の存在なのだ
同じような昔話の呪いがないとは誰も言い切れない。
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XXX
村へ帰って7日が過ぎようとしていた。
ようやく海から解放されたというのに、今度は山へ追いやられることとなった
ここ数日で議論された結果、こういう処置になったのだという
これは私にとって良い話だった
海から遠ざかることが出来るのだ
あの忌まわしい出来事から遠ざかることができたのだ
あれからもう数ヶ月たっているというのに
いまだ耳に響き続ける歌声と夢に見るあの異様な光景
きっと海から離れ山奥にさえ行けば、時が心を癒してくれるだろう。
そして忘れることも出来るかもしれない。
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封筒に入っていた日記はそこでページが終了していた。
塩気や湿度で想到なダメージがある日記帳をそっと閉じてアーネットに返した。
必要なところはメモをしたが、肝心な被害に関しては何一つ書いてはいない。
どうやら日記の著者は村の被害が出る前に山へ追いやられてしまったらしい。
だが腑に落ちない。
アーネットは友人に助けを求められたからこそ村へ行ったのだ。
ここで日記が終わるのはいささかおかしくはないだろうか?
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