第二話 マーメイドの呪い 7
「ご友人が民話でいう人魚を見て村へ帰った存在なんですね。」
「えぇ。最後の日記では山へ連れていかれたようなのですが、村へいった際に場所を聞いても答えてもらえないんです。」
「それは何故?」
「連れて帰ってこられてはかなわない…そうです。別の村へ行くからといっても信じてもらえませんでした。」
「呪われている現状でも戻ってきたらもっとひどいことになるかもってことですね。」
「おそらくはそういうことを心配しているのかと思います。」
「でも日記によると、ご友人が村に滞在している時は何もなかったようですね。」
「確かに。」
「逆にご友人を山へ追いやったところから呪いが始まったように感じます。」
「たしか、ここに事件の記事が。おそらく、この記事が最初だと思います。」
アーネットは書類の山から新聞記事を切り貼りしたスクラップブックを取り出した。
そしてその最初のページを開いてメアリーに渡した。
「『漁船全てが沈没』ですか。ご友人の最後の日記に日付がないので明確には分かりませんが、おそらくはご友人が村をでたあとのものですね。」
「エドワード?」
「横から失礼。彼女は普段助手なので少しフォローをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「分かったわ。何故村をでたあとだと分かったの?」
「漁業に出た船がすべて沈むなんて村としたら大事です。当然、ご友人の件が原因だと思う人間もいたはず。もしご友人が拘留中であれば、当然そのことを聞かれると思いませんか?」
「たしかに原因が友人であると考えているならそうね。」
「ですが、その内容は一切ない。ということは、その日だけ日記を書かなかったのか、もしくは一件についてなにも聞かれていないのかのどちらかです。そしてあれだけ細かく日記をつけているのにその日だけ書かないだなんて可能性は低いかと思います。」
「じゃぁ友人は一切関係なかったんじゃ」
「あくまで可能性の話です。もしご友人が原因だったら何故もっと早いタイミングで呪われなかったのか疑問です。海上汚染や不漁は広大な海ですから時間がかかるものだったとしても、船の沈没くらいならすぐにでもおきそうじゃありませんか?」
「たしかに。私が行ったときにははやり病の被害までありました。村は現在壊滅的な状況ですがそれが一晩で一変したとは考えにくいですね。」
「流行病も発生しているんですか?」
「えぇ。ですが、おそらくそれは水が原因でしょうね。」
「それで依頼の件はどうしますか?呪いの正体について調べますか?」
「あれは冗談よ。調べていただきたいのはそもそもことの発端となった船の失踪事件です。友人が失踪事件に巻き込まれたのなら、その一件がマーメイドの呪いではないと証明できれば私の友人の余罪も晴れると思うんです。
もちろん失踪の原因が座礁か渦潮と分かればそれで良いんです。
そもそも事故だったという結末が一番後味がよくて納得できると思うし。
それと、友人の船の人たちがなぜ消えたのかもお願いしたいわ。
もう友人が村へ帰ることは難しいと思うけれど、今も悩んでいると考えると助けてあげたいの。」
「分かりました。その二件の依頼、私が責任をもって担当させていただきます。」
「それと、もし調査中に友人を見つけたら手紙とこれを渡してもらえないかしら?」
おそらく調査にあたり実際に調査したという友人を訪ねるのは必要な行程だった。
当時の状況や詳細の位置を知っているのはその友人だけなのだ。
村にも当時の状況について詳しい人間がいるだろうが、また聞きした人間よりも実際にその場に行ってきた本人に聞くほうが確実なのは確かだった。
山に追いやられたと日記には書いてあったが、生きているのか死んでいるのか分からない。
「わかりました。」
手紙と小さな小箱
アーネットは一緒に来るとも友人の居場所を教えてほしいとも言わなかった。
だがそれは詮索することではないだろう。
依頼を受けると答えるとアーネットは満足そうに前金をおいて出ていった。
あたりがうっすらと光さす時間帯の出来事だ。
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