第1話 若返りの泉 11

 とても短いサンマリノでの日々を過ごした二人は現在雲の上だった。


「あーぁ、こんなに早く終わるなんて聞いてないわ。これじゃぁ、折角仕事を片付けたってのにゆっくりできないじゃないの」


「そういうなって。短期間に仕事が片付いて残してきたエキドナに文句を言われずに済むんだ。よかったじゃないか。」


 久しぶりのバカンスだと準備してきたメアリーはがくりと肩をおとした。

 確かにいつも申し訳ないとは思っている。残したエキドナのことを考えると用事が済んだら帰るのは筋だろう。

 それでも、1日くらいは仕事ぬきで楽しみたかったのだ。


「仕事って言うけど、結局なにもしてないじゃない。普通の探し人探しだったし、ナターシャが下調べしてくれてたからやったことと言えば警察に確認したくらいでほとんどなにもしてないに等しいわ。

 それに折角こんな遠くに来たのに、ティターノ山もゆっくり見れていないしピアディーノだってまだ食べたりない。」


「もう十分食べたじゃないか。」


「一体どうしちゃったのエドワード。いつもなら貴方のほうが文句を言い続けている番だっていうのになんかおとなしいじゃない。」


 そう、おかしいのだ。

 いつもなら帰ってからの溜まった仕事から逃げ出したいエドワードがあれやこれやと画策してメアリーがいい加減にしろと言うはずなのに。


「久しぶりに気分のいい依頼だったからな。」


「どういうこと?」


「いつもは浮気調査や犯罪の臭いがするような探し人探しばっかりだったからな。純粋な恋で恋人に会いたい依頼だなんて気分いいじゃないか。」


「それはそうだけど、本音は?」


 怪しすぎる。

 現にそう話しながらエドワードは何度耳に手を当てた?エドワードが嘘をつくときの行為なんてお見通しだ。

 蛇に睨まれた蛙のように逃げられないと覚悟してエドワードがようやく本当のことを話し出した。


「…。ナターシャからの謝礼の一部でサンマリノワインを一樽譲ってもらえることになったんだ。すぐに送ってくれるって言ってたから早く帰らないとすれ違ってしまうじゃないか」


「なるほどね。どうりで謎解きしたがっていたエドワードが何の謎もなく落ち込まずに意気揚々としてるわけね。まさか買収されてたとは思いもしなかったわ。仕事さぼりたいからゆっくり帰るかと思いきや急ぐわけね。へぇ…。そうですか。ワインね…。」


 この2日間何があったのかというと

 まずアルバーノの家へ行き、近所の住民に半年ほど帰っていないと話を聞き会社に連絡するも会社も同じように応える。

 まさかとは思い半年ほど前に事故か事件が起きていないか警察で調べるとそれがヒットして驚くスピードでアルバーノが見つかったのだ。


 メアリーの予想では普通の行方不明者と同じように一週間は滞在する予定だったのに思いのほか早く片付いてしまい、そしてエドワードの意向もあり予想以上に早く帰宅することとなり、メアリーはふくれっ面でバラウルに帰宅することとなった。


「おかえりなさい。あら、メアリーどうしたの?」


「なんでもない」


「エドワード?」


「予定していたバカンスがあっという間に終わったから怒ってるんだ」


「まぁまぁ。もう少しゆっくりして来てもこっちは大丈夫だったわよ?」


 エドワードを睨みつけて目線だけでほらみたことかといい、エキドナの顔はみずメアリーは自室の扉の前で立ち止まった。


「詳細はもうすぐ届く樽にでも聞いて!お休み」


「おやすみなさい。」


 エキドナに挨拶をし怒りながら自室へ入っていくメアリーをあきれた表情で見送りエキドナはエドワードを見た。


「それで樽って?」


 片眉をあげて理由を聞くエキドナにエドワードはため息がでる。メアリーにしろエキドナにしろ怒らせると根にもたれるのだ。


「依頼人にサンマリノワインを樽ごともらったんだ。それで早く帰宅することになって」


 馬鹿ねとかあり得ないとかそんな叱咤の台詞が飛んでくると予想していたのにエキドナの台詞はそんなことより恐ろしいものだった。


「きっとすぐ空になるわね」


「どういうことだ?」


 早々に切り上げたというのに何てことを言うんだとエドワードが聞き返すと、エキドナは不適な笑みを浮かべてこう言った。


「メアリーが飲み干すに違いないから」


「あいつまだ酒が飲める年齢じゃないだろ」


「ふふ、そうだと良いわね。」


 後日、エドワードは空になった樽とようやく機嫌が直ったメアリーを見て深く後悔することになったとか。

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