第二話 マーメイドの呪い 15

港町に到着しすぐに船を見つけて出発だと思っていたが、すぐに見つかると思った船はなかなか見つからなかった。

とうとう後回しにしていた一番小さく一番小汚い船しかなくなり気重になりながら船を訪ねた。

船の乗組員は、端切れを纏い海風でごわついた髪をゴムでまとめて布マスクをしてゴーグルをかけていた。


「あぁ、あんたら噂になってるぜ」


またダメかと諦め船を出ていこうとしたとき、「待った」と声をかけられ慌てて振り向いた。


「誰も乗せてかねーとはいってねーよ。にしても誰も行きたがらない海域に行きたいだなんて、トレジャーハンターかなんかか?」


「私たちは調査に」


「かまやしねーよ。どっちにしろ俺には大事な金づるに変わらねーし」


外見ではなんとも不安な相手だけが唯一乗せてくれると答えた。

にしても何隻も難破しているような場所にこの小汚い小舟でたどり着けるのだろうかと不安になる。


「あの船どうせ使ってないんだよな?」


「あの船ってまさか…」


「こんな小舟で難破するって噂の場所に行くだなんて無理だろう。到着する前に沈みそうだ。」


「おい、そこ失礼だぞ!ベィ号はこれでも立派に」


そういいながら壁を叩いたら釘がはずれて板がぽろりと下へ落ちた。

不安しかない。

結局となりの村まで小舟で行き、そこからこっそり船を借りることにした。

捕まると頭を抱えるメアリーとは裏腹に海賊みたいだなとキマイラは上機嫌だった。

普段ならうるさく言うエドワードは、どうせ幽霊船だと思われてる船だから忽然と消えても誰も問題視しないだろうと言うし、雇ったばかりの船長はただ大きすぎる船に感動していた。

そうして乗ってきた小舟を引き上げ幽霊船で問題の海域に出港した。


***


「なぜ誰も行きたがらないんでしょう?」


一隻二隻ならまだしも、目の前の船長を除いたほとんどの船が断ったのだ。

問題の村の話や豪華客船の話を知っていたとしても警戒しすぎではないだろうか?とメアリーは尋ねた。


「しょーがないさ。元々、あのあたりは呪われた海域って悪評があったんだ。まぁ迷信だろうが、もともとそういうのを信じる連中は行きたがらない海域だった。そこに数か月前の豪華客船の事故やこの船の噂まで広がって今じゃ誰も近づこうとさえしねーな。」


「頼んだ私がいうことじゃないんですけど、貴方はよかったんですか?」


「いいさ。そんな迷信信じてちゃ仕事になんねーよ。」


「どんな迷信なんだ?」


「俺らの村ではあの海域には人を惑わす人魚の巣があるらしい。そこで沈んだ船は数え切れないほどで見たこともない財宝が眠ってるらしい。」


「なら、それは悪評じゃないんじゃないのでは?」


「バカ言え!あそこに行けば確実に船が沈められるって言う時点で悪評だろう。稀にトレジャーハンターがお前たちみたいに船を探してやってくるが俺は帰ってきたやつを知らねーよ。そうわけで、ここいらじゃそういう依頼を引き受けるやつはほとんどいない。」


「それなのによく引き受けてくれましたね」


「俺にはあそこでやらなけりゃいけないことがある。一人じゃ無謀だと分かっていたからな。次船を探すやつを俺は待っていたんだ。」


そういう船長の横顔は表情は見えなくても何かを覚悟した気迫に満ちていた。


***


海という広大な場所でどうやって座標が分かるのだろう。

地図とはあれど明確な目印もなく道路もない。

島と島を繋ぎ大体の位置だというのに緯度と経度はどのように決めたのだろう。

長い船旅でやることもなく呆然としているときメアリーはふと疑問に思った。

考えれば考えるほど疑問になりメアリーは船長に聞いてみると、感とあと目印があるのだと教えてくれた。


「メアリー、落っこちるぞ。」


あまりに暇でメアリーは教えられた目印を探し船から身を乗り出した。

それを見たエドワードは慌ててメアリーを引き寄せるも、あまりにキョトンとされバツが悪くなってしまった。


「…。何か探してるのか?」


「目印があるらしいんだけど…」


「目印?」


「そう!海域を見分ける目印があるらしくて」


「そんなの探してどうするんだ?」


「どんなか気になるじゃない!」

暇だし!と後につければエドワードも大いに同意見となった。


結局それから数時間海をのぞき込み、メアリーとエドワードは海水を被って髪が塩だらけになったが見つけることができなかった。

どういうものなのかと尋ねに二人は船長のところを訪ねるが、その姿をみた船長は大笑いをしながら謝罪した。


「なにもそんなに笑うことないじゃないですか!」


「すまねぇ、まっさか海の中に目印があると思うとは思わなかった」


「海に浮きみたいのがあるんじゃないんですか?」


「くはっ!ないない!目印っつーのはあれのことなんだ」


大笑いしながらそう指さしたのは卓上にある機械だった。


「コンパスと羅針盤っつってな、星や太陽とそいつらを使って大体の位置が分かるのさ。この船にはいいもんが揃ってる。」


探しても見つからないわけだ。

それに考えてみれば広大な海に目印の浮きを浮かべるだなんて途方もなさすぎる話だった。

ばかばかしいとは思いつつも一日は少なくとも有意義に過ごせた気がした。

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