第9話 ルーヴァンス伯爵(side:タチアナ)
「なによ、あの女。」
「どうしたんだタチアナ。今日は王子と話に行ったのではないか?」
イラつきながら帰ってきた娘に声をかけるルーヴァンス伯爵。
「聞いてくださいお父様。実はさっき王城で男爵家の小娘のせいでエルヴィン様とのお話の時間がなくなってしまったのですわ。」
「男爵家の令嬢か……。男爵程度なら我が伯爵家の力で潰してやろう。」
「お父様、それは素晴らしいですわね。」
娘が王妃になるとそれだけで権力になるため、邪魔になる存在は排除する。
「そうだな、付き合いのあるクリスリッタ商会を通じて、男爵家に謝罪と賠償も求めてみよう。」
うまくすれば賠償で娘が王妃になるための踏み台になるだろう。
「よろしくお願いしますねお父様。私が礼儀と言うものを教えて差し上げようとしたのに……、あの生意気な軍服令嬢をギャフンと言わせてくださいまし。」
「ああ、ギャフンと言わせ……、――――ちょっと待て、軍服を着てたのか?」
「ええ、そうですわ。エルヴィン様の前にもかかわらず、軍服でお茶を飲んでましたのよ。信じられませんわ。」
「……軍服を着た男爵令嬢なんだな、そのご令嬢は。」
「ええ、そうですわ――――って、お父様、顔色がよくありませんわよ。」
伯爵の顔色が変わった。まさかと思いつつ、我が娘がもしかしてやらかしてない事を祈り出した。
「き、気にしないでいい。それより、そ、そ、そのご令嬢のお名前は……。」
「お父様、様子がおかしいですわよ。」
「い、い、い、いいかっら、お名前は。」
「えーと、確か、『クリス=ウォルスター』でしたわね。ウォルスター男爵令嬢をなんとか――――。」
「こっんのばあかむしゅめぐわーーーーーー!」
娘が言い終わらないうちに、思わず娘を殴る伯爵。しかも怒りで呂律が回ってない。
「な、な、何しますの、お父様!」
なぜいきなり殴られたのかわからないタチアナ。
「当たり前だ!我々ルーヴァンス家の今があるのは、クリス様のお陰だぞ!なんて事をしてくれたんだ!」
「なぜ、あんな小娘ごときが我がルーヴァンス家をどうにかできるというのですか?」
その言葉に再び殴られるタチアナ。
「当然だ!クリス様は我々がお世話になっておるあのクリスリッタ商会の商会長であられられるのだぞ!」
「ええー、あの人は将軍でしょう?なんでこの国一の商会の商会長までできるのですか。」
「それはわからん。だが、3年前に没落寸前だった我が家に白金貨20枚もの資金を融資してくれてルーヴァンス家を建て直すことができたのはクリスリッタ商会のお陰だ。クリス様がいなければルーヴァンス家はなかったかもしれん。」
タチアナはその事実と先程やらかしてしまった事で言葉を発することもできず、顔面蒼白になっていた。
「まずいな……、だが、まだうまくすれば……。」
伯爵はこの最悪の状況を打破しようと、頭を働かせる。まず、自分の娘は今はもう使い物にならない。ならば恩人クリスに報いて協力をすれば……。
「そういえば、あのお方がお妃になられるのに家格が足らないはずだよな……ならば。」
娘の両肩に手を置き、思い付いた案を伝える。
「タチアナ、よく聞け。お前がやってしまったことは取り返しはつかない。お前がやらかしてしまった事を謝罪し、お前を王太子妃候補を辞退する。そして、恩があるクリス様を助けるためと言って、我がルーヴァンス家にいらしていただく。しばらくお前は婚約者を用意できないだろうが、王妃の実家というネームバリューでいい相手を見つけることは容易いだろう。」
「ですが、お父様。私はエルヴィン様と……。」
「すまん、それは家のために諦めてくれ。もう手遅れだ。」
「おとうさま。」
「本当に、すまん。これから宰相殿に会ってこの旨を伝えてくる。すまないが、しばらく謹慎という体で自室の中で過ごしてくれ。」
うなだれたタチアナは、小さく「はい」とだけ答え、自室に向かった。
それを、眺めて、申し訳なさそうに王城へ向かう伯爵であった……。
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