第17話 秘書確保

「ちょっと待って、いろいろあって混乱している。」

「詳しくはこの資料を見て。で、私の方からも提案があるの。」

「ま、まだあるの!?」


 資料を出しながら、提案をしようとする王女に目を白黒させる。


「私からの話は簡単よ、私の秘書をしてみない?」

「ええーーーーー!」


 叫び声は前からではなく、斜め後ろから聞こえた。ウダウダ言う侍女を無視し、目を見開いてフリーズする女性に声をかける。


「実はね、12日前までは将軍兼商会長の二役してたんだけど、王太子妃候補に王女役まで増えちゃって手が回らなくなりかけててね。で、優秀な秘書を探してたんだけど、そしたら義妹と義母からエルネイシアさんのマネジメント力を聞いてね。なんでも10人の王太子妃候補の仲の良さ悪さを把握して、仲の悪い令嬢同士が同じお茶会にバッティングしないように調整して、フェリシアや王妃様のお茶会を使ってスケジュールを合わせてたんでしょ。今、私に必要なのはこの人だって事で、スカウトに来たのよ。」

「ちょっと待って、何がなんだかさっぱり――。」


 若干パニックになるエルネイシア。それもそのはず、ほんの数分前まで家族と一緒に連座で死罪と思っていたのが、やれ爵位だ、やれ王女の秘書だ。一気に視野が180度変わったのだ、無理もない。


「ああ、ゆっくりでいいわよ。今日の予定はこの件だけだから聞きたいことがあったらなんでも言ってね。」


 まだ午前中である。それだけこの件は大きいのだろう。


「えーと、まず、拒否権は……。」

「当然あるわよ。どっちか片一方だけでも、それこそ両方断ってもいいわ。」

「えーと、爵位は――――。」

「元々が辺境伯領だったんで、伯爵か子爵になりそうよ。」

「えーと、爵位を貰った場合、婚約者って――――。」

「貴族の婚約は当主が決めることになってるわ。すなわち、あなた自身が当主だから誰でも気に入った相手がいて、相手の当主が認めたら婚約できるわ。婚姻も同様よ。ちなみに、王家はよほどの事がない限り婚姻には介入しないわよ。まあ、斡旋は受け付けるらしいけど。」

「では、領地経え――――。」

「領地経営についても王家からの口出しはよほどの事がない限りないわ。また、クリスリッタ商会が完全バックアップするので、わからないことがあればクリスリッタ商会まで。」

「――――クリスリッタ商会って何?」

「ああ、私がをやっている商会よ。輸送から領地の建て直しまでなんでもこなすわ。」

「――――ちなみに、私の家ルーヴァンス伯爵領もクリスリッタ商会のお陰で私を王太子候補に出せるくらいまで持ち直しましたわ。」


 そして、王家に対するやらかしと、クリスリッタ商会への借金のかたに侍女に抜擢されているタチアナである。


「爵位を貰った場合の私の住みかはとか――――。」

「資金と住居は王家が辺境伯から没収したものを下賜することになってるわ。まーあなたの実家をそのまま渡すことになるわね。執事やメイド、料理人とかは雇い直さなきゃならないけど、そこら辺はクリスリッタ商会が斡旋させてもらうから怪しい人物は来ないはずよ。」


 遠い目をしながら……。


「……クリスリッタ商会はどこまで手が伸びるんですの――。」


 本当にどこまでできるんだか。


「つぎに、秘書ってどんなことを――――。」

「まあ、貴族的には執事とほぼ同じかな。ただ、執事と違うのは家の一切合切をまとめ上げているのが執事長なんだけど、私が欲しているのは商会長と将軍、王女と王太子妃候補、四つのスケジュール管理と、私への負担の軽減ね。」

「スケジュール管理はわかるけど、負担軽減って?」

「それは、商会はまだましなんだけど、軍の方がね、私じゃなくても処理できる書類が私まで来るのよ。で、その私じゃなくても処理できる書類を処理できる部署に回してもらいたい。あと、回すことができる人員を育ててほしい。」

「そんなに多いの?」

「この二日間、軍から回ってきた書類で午後丸々使ったわ。6時間くらいかな。」

「お、おおう。」

「で、商会の書類を処理したのが2時間、王太子妃の勉強が3時間、王女としての勉強が2時間。これに食事、入浴、睡眠とかを入れると……。」

「ほとんど時間がありませんわね。」

「そうなのよ~。お茶会や夜会に誘われていても仕事で行けないから断ってるんだよ~。」

「で、軍の書類で将軍の決済だったものはどれくらい――。」

 指を3本立てた。

「さ、三割?」

「それホント?」

「本当よ。しかも急ぎの件はたったの2件でうち1件は私じゃなく。」

「うわー。でも3パーセントなら15分くらいで終わるんじゃ?」

「終わるよー。後回しにしている軍の会議もできるよー。お茶会も行けるよー。」

「ちなみに王子様と最後に会ったのは?」

「二日前の謁見の間で会ったのが最後かな。その前が11日前の王女様――フェリシアのお茶会の時で、その前が戦勝の謁見の時ね。」

「私でも3回あるわよ。お茶会や夜会で――――。わかった、やるわ。」

「え、ゆっくりでいいよ。」

「一応、王太子妃候補の令嬢はは王太子とお茶会か夜会に参加することが義務付けられているのよ。」

「あー、じゃあ私は仕事で義務自体出来ない状態なんだ……。軍のせいで。」

「まあ、私がカバーするわ。といっても準備に数日はかかるわね。」

「……ところで、何をやるの?」

「ああ、あなたの秘書ね。爵位の方は……。もし、私が爵位をとらなかったら、バグマン領ってどうなるの?」

「仮に王家直轄領になったあと、誰かに下賜されるはずよ。しばらく塩漬けになってからみたいね。たぶん、功績はあるけど爵位のない有力騎士じゃないかなぁ。でも、最大数年後って事だけど、誰に下賜するのでしょうね。」


 エルネイシアは気づいてしまった。


(たぶん、にクリス王女が公爵として治めることになるんだろうな。)


 そして、その時の右腕は自分である事も。


「爵位もついでに貰っておきましょう。常に領地にいなくてもいいんでしょう?」

「そうね、月に数日は行った方がいいと思うけど、領地経営の基礎を教えることができる人材に心当たりがあるから、しばらくはその人に会って勉強しているでもいいわよ。」

「じゃあそれも含めてよろしく、クリス様。」

「こちらこそよろしく、エルネイシアさん。」


 ガッチリ握手する二人。


「あ、私の事は”エル”って呼んでください。」

「それだと、”殿下”と被るので、シアと呼ばせてもらうわ。あーあと、この離宮の次の主って私だから、秘書の仕事上この離宮に部屋を用意するから。」

「えっ!?」

「ちなみに部屋割りなんだけど、実はこの離宮、主寝室があるの。昔の王太子とそのお妃が離宮内別居したときに作った離宮だって。もう一方の主寝室を私が使うから、部屋はそのままでいいわよ。」

「え、ええ~~~~~~!」


 ちなみにタチアナは侍女用の部屋である。

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