第18話 王家の食卓
その日の夕方、クリスは王室の食堂にいた。晩餐を食べるためである――――王家の人たちと。
「一昨日はすまなかったな、突然で。」
「……陛下。」
「パパと言ってもいいんだよ♪」
頭が痛くなる。
「……この中で二番目に扱いが難しいのは貴方ですが、国王陛下。」
「私はお義母さんでいいのよ。」
「はい、お義母様。」
「……ワシと大分扱いが違うんだが。」
「そうですね、一昨日何をしたかを思い出していただければ宜しいかと。」
「……あれは、エレナが提案した事なんだが。」
「それでも、黙っていたのは陛下ではありませんか。色んなところに根回しが……、今回は必要なかったですけど、ちゃんと意思統一して動かないと足元を掬われますよ、陛下。」
ぐうの音もでない国王。
「お姉様お姉様、先程お父様が二番目に扱いが難しいと言ってましたけど、一番はどなたですか?」
フェリシアがとんでもない不発弾を持ってきた。場が一気に冷え込む。
「……フェリシア様、空気を読みま――――。」
「フェリスでいいですよお姉様。私はお姉様の妹になったのですから。敬称も要りません。」
「ありがとうね、フェリス。これからはフェリスって呼ばせてもらうわ。」
(可愛い。頭なでなでしたい。)
食卓なので頭を撫でるのは自重する。
「で、一番はどなたですか?」
この一瞬、この場にいたすべての人物(使用人を含み、当人を除く)は、心が一つになった――――。((王女、空気読め!!))
「……皆様、ちょっと失礼しますね。」
私は、笑顔でそっと席を立ち、フェリスの方に向かう。そして、笑顔のままフェリスの後ろに立つ。
「え、お姉様?どういたしました?」
「…………。」
笑顔のまま、無言でフェリスの脇の下に手を入れる。そして、腰を入れてそのまま持ち上げる。伊達に将軍をしていないのでこれくらいは簡単だ。
「お、お姉様?もうすぐ食事が来ますよ?」
「…………。」
そして、笑顔でフェリスを持ち上げたまま、部屋を出る。さすが王宮の侍女、スッと扉を開けてくれる。
10分後
再び食堂の扉が開く。そこには、出ていったときと同じように笑顔で現れたクリスと、シュンとして後に続くフェリスがいた。
「食事の準備は整ってますか?」
近くの侍女に確認をとる。
「はい、準備はできています。」
「では、夕食にしよう。クリス、王族の食事は冷えたものしかない、すまんな。」
国王陛下が謝る。
「いえ、万が一に備えて毒味をするのは当然です。まあ、やりようはあるかと思いますが。それでも、前線の食事よりはよほどいいです。」
「前線の食料事情はそこまで悪いのか?」
「いえ、そうではありません。いつ戦いになるかわからないので、悠長に煮炊き出来ないだけです。煮炊きするために火を起こすと、その煙で居場所がわかったりするので、簡便な食事になってしまうのです。」
「なるほど、そういうことなら、まだ王宮の食事の方がましと言えるな。」
「ちゃんと調理されたものですからね。前線では干し肉や堅パンになりますし、水ですら貴重品になります。」
「水がか?」
「ええ、水は重いのです。ワインボトルを持っていただけるとわかります。」
陛下が侍女にワインボトルを持ってこさせ、その重さを感じる。
「こんなに重いのか。」
「ボトルの重さがあるのでもう少し軽くなりますが、その量ですら本来人間が1日生きるのには少なすぎるのです。ですので、必ず水魔法が使えるものを複数人、部隊に入れます。」
「なるほど、では王宮の食事はかなり恵まれていると云うことか。」
その答えにたいし、私は首を振る。
「いえ、やりようですね。最低でもこのスープは温かいものが食べれるかと。」
「ん?どう言うこと?」
エルヴィン様が聞く。
「簡単ですよ、移動式コンロを使ってここで温めればいいのですよ。鍋から毒味して温かいままここで取り分ける。これで温かいまま食べれます。」
「なるほどな。」
「あとは、今軍の方で研究中の火魔法を使える者で食べ物を直接暖める方法ですね。まだ、研究途上で温度の調整がうまくいかないので、王宮の料理に使えませんが……。」
そういう話をしながら食事をとった。
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明日6月1日から『婚約破棄令嬢、追放され……ない!?』を投稿しています。
全5話、1万字ほどの短編になります。よかったら読んでみてください。
また、同じく明日6月1日より『鉄道マニアが異世界で鉄道会社を起業する。』の連載の再開をします。
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