王太子妃へのばく進
第16話 エルネイシア
全貴族に対する発表のその2日後、ある離宮に王太子妃候補兼将軍兼王女と言うややこしい立場になったクリス=ウォルスター=ラドファライシスが来ていた。
「よくいらっしゃいました、王女殿下。」
「それだと、義妹のフェリシアと区別が付きにくいので、名前か将軍を付けてください。」
立場が変わってややこしいことになって、一番混乱したのが敬称問題である。
元々は男爵令嬢と将軍閣下の2パターンで、状況によって軍務以外はクリス嬢、軍務中ならウォルスター将軍閣下だったので区別する必要はなかったのだが、王家の養女になってしまったため、軍務中だろうが関係なく一番上の”王女殿下”が付いてしまうのである。しかも義妹になったフェリシアも元々”王女殿下”なので区別が付かないうえ、第1第2をつけようとすると、王位継承権がない年上で次期王妃候補の私と、王位継承権のある年下のフェリシアのどっちが第1でどっちが第2になるか難しい問題になってしまう。取り敢えずは名前か将軍を私の方に付けることで区別することになったのである。まあ、王太子と結婚したら区別の必要はなくなるのだが……。
「そうですわね……、取り敢えずはクリス王女殿下でいいでしょうか?」
「ええ、それで構いません。軍の方は私がトップなので私が仮に決定したもので統一されたのですが、政務の方はまだまだ統一されてませんね。」
ちなみに軍では、軍務中は”将軍”、軍務外及び王女としての公務で軍にいる場合は”王女殿下”で統一している。と言うか、させた。
「さて、バグマン元辺境伯令嬢エルネイシア嬢。あなたに話があって参りました。中に入っても?」
「ええ、どうぞ。お付きの方もどうぞお入りにな――――――あら!?」
「え、いや、まさか……。」
エルネイシアの目の前にいた、王女のお付きの侍女に見覚えがあった。それも幾度となく争った相手である。見間違えることはないはず……。
「タチアナ様?」
「なんでしょう、エルネイシア様。」
「……タチアナ様、なんでそんな格好を……。」
「――――まあ、なんと言うか、売られた?」
「ええ、金貨500枚でしたね。」
憮然とした態度の侍女と苦笑いをする王女。
「まあ、タチアナのやらかしたことの贖罪と、私が伯爵家にした援助と、私が王女になってしまったのである程度高い爵位の令嬢で、裏切ることのない侍女が必要になったので、私が伯爵家に依頼して侍女になってもらったのです。」
「……色々大変ね。」
「そうですわ!一昨日自室で謹慎させられたかと思ったらいきなり王宮に行って侍女をしろですわよ!私、侍女の仕事なんてやったことないのにあんまりですわ。なのにあの男爵の小むす―――――。」
「侍女がそんなことしちゃダメでしょ。王家の恥になるんだから。」
エルネイシアの呟きに、思わず手を取る侍女。それを止めて引っ張っていく王女。主従関係がわからなくなる構図である。
「で、どの部屋に行ったらいいの?」
「こちらでございます。」
離宮に配属された王宮の侍女に案内され、応接間に向かう。その後を慌ててついていくエルネイシア。
応接室に着くと当然のようにクリスが上座に座る。その隣に座ろうとするタチアナに「あんたは立ってなさい」「なぜですの?」「侍女は主人が座っていいと言ったら座れるの。」「じゃあ座っていいと言ってくださいまし。」「普通、言わないわよ。あんたも言ったことないでしょ。」「そういえば、そうですわね。」というコントをしつつ、「座ってください。」「では。」「あんたには言ってない。」「ええ~。」というオチまで終わらせた後、本題に入る。
「エルネイシア様、あなたの実家”バグマン辺境伯家”は、国家反逆の罪によって爵位没収の上、解体されることになりました。」
「聞いております。私はいつここを追い出されるのでしょうか?それとも断頭台行きですか?」
「後者は無しね。あなたには全く罪がない。それどころか領民には元辺境伯やその令息よりも慕われてるみたいね。」
「まあ、父も、兄も酷かったですからね。」
「調べると、あなたは幼少期から父親や兄の行為を諌めていた見たいね。」
「まあ、効果はなかったけど。」
「で、厄介払いを兼ねて5年前に王太子妃の候補にされると。」
「ほんと、嫌になるわ。」
「まあ、2歳差ならねじ込めるからね。ただし、侍女から護衛から何から何まで父親の息がかかっていたものだけで囲まれていたと。」
「そうね、私の言うことなんて一言も聞かなかったわ。」
「その間に王女誘拐事件を6件起こしていたと。」
「……へっ?6件?」
「ええ、非公式の1件があって、それもあなたの家がやったことだったわ。」
「……そんなにも、腐っていたんですね。我が家は。」
「実はそうでもないですよ。本当なら辺境伯領を制圧するのに1ヶ月はかかる見込みでしたが、領軍のナンバー2が辺境伯に対して反乱。領軍の一部の上層部と私腹を肥やしていた官僚をあっという間に捕らえて、国軍に降りました。」
「……へっ?」
「しかも降伏条件が『王太子妃候補として王宮にいるエルネイシア様を自由にする事、元辺境伯の罪を押し付けないこと』だったそうです。」
唖然とするエルネイシア。まさか領民がここまで慕ってくれてるとは思わなかったのだろう。
「それで、我が国としては悪事を働いた元辺境伯は断罪するが、何の罪もない、しかも領民に慕われている令嬢を同じ罪で裁くわけにはいかない。そのため、令嬢エルネイシア=バグマンに爵位を与え、旧辺境伯領を与える事とする。」
「え、ええ~。」
後ろで侍女が驚きの声を上げている。
「ちなみにこの話は蹴ってもらっても構わない。ただし、あなたに罰を与えることもない。この離宮を離れるのも、町で暮らす準備ができるまでいても構わない。」
破格の条件である。
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