第8話 タチアナ嬢
「なんですの、たかだか男爵の小娘程度が王子様と一緒にいるなんて。恥を知りなさい!」
意味のわからない、いちゃもんが飛んできた……。
とりあえずそっちを見ると、赤いドレスを着た令嬢が立っていた。
確認のため、王女様に視線を向けると、
「伯爵令嬢のタチアナ様ですね、お兄さまの婚約者候補の一人です。私は呼んでませんね。」
ここは王城の中庭なので、令嬢とはいえ簡単に入ってこれないようになっている。ということは誰かが許可を出したということになる。許可を出せるのは王族だけなので……、と王子様を見る。
「ああ、この後3時から会う約束をしている。」
なるほど、タチアナ嬢は”城内で王子と会う約束をしているから入れた”わけですね。城内に入ることには問題はないですね。
「ほら、なんとか言ってみなさいな!」
タチアナ嬢はなんか興奮しているみたいだ。まあ、愛しの王子さまと一緒にいる男爵令嬢を見つけたからちょっかいを出したって所ね。なら、ちょっとお灸をすえましょうか。
「タチアナ様、ちょっと聞いてもよろしいでしょうか?」
「なによ!」
「あなたは、何をしでかしたのか、わかっていますか?」
「無礼な小娘に説教をしてあげてるんじゃない。問題があるとでも。」
あ、本気でわかってないな、これ。
「では、説明しましょう。まず、この場には王族の方がいらっしゃいます。その方に挨拶もなしに話しかけるのは失礼に当たります。そもそも私は王女様に誘われて王女様主催のお茶会に参加しています。呼ばれてもないあなたが王女様の客人にそのような事をおっしゃるのは会の主催である王女様に失礼ではないでしょうか。更に王女様のお茶会を乱す行為も失礼に当たります。それに私は将軍でもあります。この場合は、国の要職につく人物になりますので公爵に準ずる扱いになり、令嬢ごときより遥かに格上になります。そんな人物にその物言いはどうかとおもいます。」
「なっ!」
「知らなかったとは言えませんよ。私は軍服姿でいるのに『男爵の小娘』とおっしゃったじゃないですか。城内に入れる軍服姿の男爵令嬢なんて私しかいませんよ。そもそも、この姿で『男爵の小娘』と判断できるのは私が誰かと言うのを知っているからでしょう。」
その言葉に黙ってしまう伯爵令嬢。
「こんなのが婚約者候補なんて苦労しますね。」
「そうだな、こんなことを起こしてしまうようだと困るね。タチアナ嬢。」
「は、はい。」
「この後会う約束をしていたが無しにしよう。」
「……なぜ……ですの」
彼女、驚愕の顔をしているけど、当前じゃないかなぁ。
「妹の恩人に無礼な物言いをするあなたと話すことはない。帰ってくれ。」
「そんな、その程度のことで……。」
「あなたにとってその程度でも、我が国にとっては大事なことだ。出てってくれ。」
「……そんな、もう一度お話を。」
食い下がろうとする令嬢がうざいので、黙らせようか。
「あのね、ここにいるのは次期国王と軍のトップ。その気になればあなたを不敬罪を犯した罪人として捕らえ、あなたの家を潰す命令を下すことができる権力者なのよ。止めることができるのは国王陛下だけ。そんな私たちが本気で動く前にこの場から立ち去った方がいいですよ。タチアナ嬢の護衛の方、今すぐ彼女を連れ帰ってください。いいですね。」
一応伯爵家の護衛だから私に命令権は無いのだけど、不味いと感じてタチアナ嬢を連れ帰っていった。
まったく、お茶が不味くなるじゃない。
「少しムカッと来ましたが、お姉様が言い返していただいたお陰でスッとしました。」
「それはよかった。まあ、あそこまでやり込めたら直接なにかはできないでしょ。」
「そうだな、あんなのの事は忘れてお茶会を楽しもうじゃないか。」
「そうですわね。」
二人とも乱入についてはもう気にしないようだ。
「そういえば、タチアナ嬢ってどこの伯爵家なのかなあ。」
「ああ、ルーヴァンス伯爵家だ。」
「あーあそこね。後でちゃんと処理しておきますね。」
「ああ。…………………………処理?」
その後は用事が無くなった王子も一緒にお茶会を楽しんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます